
主に東アジアの福祉政策や福祉国家観についての比較検討を重ねた内容となっています。
この本には、エスピン=アンデルセンの福祉国家類型論への批判意識が強く見られます。
体制形成期のアジアNIEsの政治構造は、エスピン=アンデルセンの三つのモデルのいずれにも当てはまらない。(p.22.)
欧米と東アジアの間には普通に考えられている以上に根本的な差異があるのかもしれない。つまり、欧米には福祉国家の基礎となる救貧法の伝統があり、さらにさかのぼって境界による貧民救済の伝統がある。これは、欧米の先進性というよりも特殊性だと考えられる。東アジアやそのほかの多くの地域では、親族集団による弱者保護が基本だった。・・・これほどの歴史の違いをふまえれば、福祉国家形成に関するエスピンーアンデルセンの類型論を東アジアに当てはめることはいかにも荒唐無稽と思われる。(p.229.)
この本で印象的なのは、一方ではアジアの特殊事情に焦点を当てつつ、他方で、アジア特別論的な議論を退けるような論じられ方をしている点です。
東アジアの多くの国は、公的な社会保護を十分に整備しないまま、低成長と家族福祉に助けられて経済発展をまい進してきた。しかし、1997~98年のアジア経済危機はその欠陥を暴露することになった。(p.7.)
日本・韓国。台湾・シンガポールで顕著なように、東アジアには高齢化率のわりに社会保障支出が少ない国が多い。(p.58.)
要するに、家族規範については先進国型へと収斂が見られるものの、社会保障の不備を家族福祉が代替する傾向は東アジアにも残存していた。とはいえ、「東アジア特有の儒教的家族」は、今となっては幻影にすぎない。・・・・家族による福祉国家の代替は、規範としては日本のみならず韓国でも急速に過去のものとなった。(pp.69-71.)
同時に、アジアの中での多様性にも注目しており、本書中盤では、日本、韓国、台湾、シンガポールなどの比較が行われています。コーポラティズムの形を軸に整理がなされているように思いました。「福祉国家にも単一の「東アジア型」があるとする仮説は疑わしいと言わざるを得ない」(p.29.)とも述べています。
また、高齢化やグローバル化を含めた社会変化の中で、アジア各国の社会保障の体制を見通し、EUから連携の在り方を学ぶべき点があることも本書後半で示されていました。
特に印象に残ったのは、シンガポールについてで、香港やシンガポールでは、「福祉国家」(すなわち、ここでいう「制度モデル」の福祉国家)はいまだに政治的禁句とされていたり(p.38)、シンガポールでは生活保護の保護率が異様に低いこと(p.160.)などでした。今現在の動向なども気になります。
歴史的経路の違いを認めながら、東アジアを固定的な文化類型として扱わずに比較するにはどうすればよいのか、という点を考える機会になりました。今後もしっかりと注目し学んでいきたいと思います。