読書メモ

新川敏光編(2011)『福祉レジームの収斂と分岐:脱商品化と脱家族化の多様性』ミネルヴァ書房.

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福祉国家の多様性を、「脱商品化」と「脱家族化」の視点から、多角的に論じている本です。とりわけ、エスピンーアンデルセンの3類型を修正して提案された類型論が分かりやすいです。
「脱商品化」「脱家族主義」の両方の軸の高低から、社会民主主義、自由主義、保守主義、家族主義、を類型的に示しています。日本は家族主義に入ります。
家族主義には南欧の国なども入り、アジアが家族主義であるという話にならず、うまく保守主義的な国と分けつつ、さらに、家族主義的な国家に内包される自由主義的な側面をうまく説明しているように思えました。

家族主義レジームについて、以下のように述べられています。

最後に、第四のモデルである家族主義レジームをみてみよう。このモデルと保守主義モデルの大きな違いは、脱商品化の違いである。保守主義は職域ごとに異なる社会保険をもっているとはいえ、各制度の給付水準の底上げと平等化がみられるが、家族主義においては、公務員や一部の社会保険が特権的に寛大な傾向がみられるものの、概して保障のレベルは低く、小さな福祉国家にとどまる。社会サービスは、当然のように発達していない。女性は無償の家事労働に従事することが期待され、労働市場に参加する場合でも、周辺的な労働力にとどまる。このような家族主義レジームに入る候補として、南欧と日本がまず挙げられる。(p.17.)

この説明に基づけば、日本が家族主義レジームに属する理由は、脱家族化がなされていないことだけでなく、脱商品化がされていない点にこそある。また、児童支援パッケージの水準が低いこと、公的扶助支出が小さいこと、失業保険の給付期間が短いこと、保育サービスや出産休暇、育児休暇などを含む平均指数が、地中海沿岸諸国と日本が最低レベルであること、などが述べられている。(pp.17₋18.)

このように、日本の分析の際にも、日本の脱商品化の程度が低い点に注目が集まっています。例えば、仮に介護保険制度が2000年頃にできたとしても、その背後でどのような雇用・労働政策が展開されていたか、という点が、「脱商品化」の文脈から重要になる、ということでもあるのだと理解しました。
また、女性の労働力率だけを見て「脱家族化」の有無を問うのではなく、実質的に「男性稼得者モデル」となっているか否かを見極める必要があることも意識されています。

女性の労働力率が向上することは、一般的に女性の家族からの自立能力を向上させると考えられる。つまり脱家族化を促すと考えられる。しかしながら、我が国においては、女性の就業が依然として男性稼得者モデルを前提にしたものであること、すなわち女性の就業パターンは家庭内労働を前提にしたものであり、その労働市場における役割は周辺的なものにとどまるケースが多いことを鑑みれば、女性労働力の向上による脱家族化の進行は限定的なものにとどまるといえよう。(p.321.)

日本では、国会イニシアティブのもとに自由主義化が進行したのである。自由主義化は、当然にもわが国の家族主義レジームの変質を促している。しかし家族主義の伝統は依然として消え去っておらず、そのことがショッパのいうように、若い女性の結婚、出産からの「退出」を招いている(Schoppa,2006)。(p.327.)

このような論じられ方を読みながら、実質的な意味で「脱商品化」「脱家族化」が進んだかどうかを見極めるには、おそらく狭義の意味で社会保障制度だけを見ていては不充分なのだろうと実感しました。

その他印象に残ったのは、福祉国家の条件を規定する際に、「社会保障が施しや恵みではなく、社会権として確立していることに求められる。したがってどれほど豊かな施しが国家によってなされる社会であっても、保障に権利性が伴わなければ福祉国家というべきではないだろう。」(p.6.)と述べつつ、「このように資本主義経済と民主主義のせめぎあいの中で、福祉国家という現象は生まれるのである。」(p.7.)とも述べられている点でした。これらの議論の中でシティズンシップの話も出てきます。
権利としてのシティズンシップと言った場合に、時として、何かある種の保障され固定化された権利資格のようなものが想定されがちな場面もある気がしますが、本書を見ても分かる通り、福祉国家が保障している社会権の形は絶えず揺れ動いており、その都度シティズンシップのあり方が揺れているようにも思います。そういった揺れ動きや意思決定を市民がどう見極め、可能な形で応答するか。福祉国家における社会権としてのシティズンシップも、決して盤石なものではなく、運動性を伴い続けるものなのだと感じる機会となりました。

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