
読み物としてめちゃくちゃ面白い作品でした。
分量は550ページくらいありますが、人間模様やテンポ感も刺激的で、最後まで一気に読み進めたくなる本です。
キャラクター構成はフィクションですが、出てくる発言のほとんどは現実の論文や書籍、研究データに基づいているため、現在の少子化政策、人口政策に関わる論点を一気に学ぶことができます。
全世代型社会保障改革の背景や思想をここに読み取ることができ、反論に説得を講じて、感動のストーリーになっている点などは、ある程度冷静に(差し引いて)読む必要があります。
ただ、様々なデータや論争点、過去の経緯などを会話内にふんだんに入れ込んでくれているので、読んでいるだけで勉強になる、という点も多いと感じました。
人口政策を考える前提としては、「人口モメンタム」(p.39.)、人口問題の「時間差」の原理(p.41.)をはじめ、その怖さを感じるには十分な説明が展開されています。このままの出生率で行けば、2010年に人口が5300万人になるというシナリオのもと、2070年に1億人をキープする政策を提案していく政府関係者の紆余曲折が描かれています。
特に印象に残ったのは二点です。
一点目は、著者の経歴とそれに付随する登場人物の経歴も関係するかと思いますが、「子ども保険」を構想する議論が、介護保険を実施するまでの議論と類似するものとして描かれています。介護保険も提案当初は様々な批判があった点などが回想として挙げられています。
つまり、こども保険は、親のための保険ではなく、『子どものための保険』なのです。介護保険を参考にすると、理解しやすいかもしれません。介護保険は、高齢者と同居する家族が少なくなり、高齢者が家族から十分な介護を受けられないリスクが高まったため、導入されたものです。その点で、介護保険は家族のための保険ではなく、高齢者のための保険なのです。(p.216.)
社会保険ですから、国民全体としての合意が得られるかどうか、ということになります。子ども保険で『親世代』が保険料を負担する理由には、将来的には『子ども世代』から『扶養してもらう』という受益が期待できるから、ということがあります。その点では、現代社会では、子どもがいない人も高齢者も、『子ども世代』が支えている年金や医療保険、介護保険を通じて、『社会的扶養』の受益を得ているし、将来得る可能性があります。つまり、子どもが生まれ、育つことは、社会のすべての人にとって、自分の老後生活を支えてくれる人が増えることを意味します。そう考えた時に、自分は社会から何もサポートも受けずに、人生を全うするのだから負担しない、と主張できる人 がいるのでしょうか。(pp.218-219.)
二点目は、国家が少子化政策に関わることに、独特のブレーキが、政府外からも政府内からもかかり続けている、という点です。小説内でも「国家の介入か否か」という論点が何度も挙がっています。以下のやり取りなどは象徴的でした。荒川さんは若い官僚で、高橋さんは新聞論説委員の方です。
荒川も納得しかねる、という表情で、
「私には、いまだ、その『介入』という批判の意味が分からないんです。なぜ、ライフプランで正し い情報を提供したり、希望者の相談支援をすれば、それが介入になるのですか。介入なんて、してないんじゃないですか」と話す。
すると高橋は、「中には、周囲からのプレッシャーで、本人の気持ちに反して、妊娠や出産に追い 込まれる女性も出てくるかもしれない。それにさっき言ったように、結婚しろ、出産しろと言われて不快に感じる女性も出てくる。ライフプランについても、作らないといけないように感じて、負担に 思う女性もいるかもしれない」と話す。
「私の周囲は真逆で、子どもを作りたいのにできなくて、心身とも疲れ果てている男女のほうがよほど多いし、そうした人たちは、早く正確な情報を知って、相談することができたらよかったのに、と思っていますよ」(p.471.)
あと、これは脱線しているかもしれないですが、「夜を徹しての作業が連日続いた」みたいな描写が多くて、大変すぎるだろ・・・と改めて思いました。ただ同時に、政策を通すために、各方面の関係者とヒアリングしたり説得したり、新たな情報を集めたり専門家と交渉したり、その資料を作ったり、そんなことをプレッシャーのある中でし続けていたら、そりゃ時間無くなるよなとも。とはいえ、この手の議論や合意形成って、マンパワーが大きければいいという問題でもなさそうな気がして、官僚の仕事の大変さを垣間見れる本にもなっています。
その他、細かくメモする余裕はないのですが、小説ゆえに頭に入ってくる情報(いつもは軽く読んでしまっているのかも…)も多かったような気がします。
・育休の対象外となっている女性が多いということ。出産前に退職してしまったり、非正規雇用で育休を受けられない人などすべてを含めると、約7割の女性が育休制度の恩恵を受けていないこと(p.139)。
→この話は、普遍的な給付制度や、最低保障額を決めるべき、という論と繋がります。
・地方創生の議論と少子化対策との深いつながりを改めて実感できる内容となっています。地方大学が地方就職にも大きな影響力を持っている(≒地方大学の進学率が高まることが重要)という話(p.114.)
・現在は、東京圏生まれの若者に地方移住をいかに促していくかが論点となってきていること(p.333.)
・都道府県別に首相率を見ると、沖縄や島根は、スウェーデンやフランス並みだということ(p.428.)