読書メモ

千葉雅也(2022)『現代思想入門』講談社現代新書.

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目次は以下の通りです。

はじめに 今なぜ現代思想か
第一章 デリダ――概念の脱構築
第二章 ドゥルーズ――存在の脱構築
第三章 フーコー――社会の脱構築
第四章 現代思想の源流――ニーチェ、フロイト、マルクス
第五章 精神分析と現代思想――ラカン、ルジャンドル
第六章 現代思想のつくり方
第七章 ポスト・ポスト構造主義
付録 現代思想の読み方
おわりに 秩序と逸脱

本書では、現代思想を主にフランスの思想家に焦点を当てながら、論じています。
中高生に向かれて書かれているとありますが、それを聞いたうえで、私自身がもっと勉強しなければいけないと痛感しました。

と同時に、文章自体は分かりやすく、イメージしやすい例えや、お薦めの入門書的な参考文献が多く挙げられており、今後の読書意欲をそそられます。

本書、一番最初の文章にグッと引き込まれました。

現代思想を学ぶと、複雑なことを単純化しないで考えられるようになります。単純化できない現実の難しさを、以前より「高い解像度」で捉えられるようになるでしょう。

p.12.

この「複雑なことを単純化しないで考えられるようになります」という表現、かなりインパクトがあります。現代的な分かりやすさを追究する流れに抗いながら、現代思想の価値を論じていく本になっている気がします。

本書で印象に残ったのは、やはりデリタ、ドゥルーズ、フーコーの解釈・説明について、「二項対立の脱構築」を目指していることが分かります。

と同時に、「仮固定的」な考えをはじめ、従来的な現代思想のステレオタイプを一新するような説明が続いていきます。

現代思想は、秩序を小ばかにし、後先考えずに逸脱したものを称揚する思想のように批判される時がありますが、それは違う、もっと難しいことを考えているのだ、というのが僕がずっと思ってきたことです。現代思想は、秩序を仮固定的なものとみなし、たえず逸脱が起きながらも諸要素がなんとか共存する状態を考察している、というのが僕の見方なのです。

pp.243-244.

個別にみると、

・「すべてを「ついで」でこなしていくというライフハック」(p.68.)「多様な関係のなかでいろんなチャレンジをして自分で準安定状態を作り出していけ」(p,.71.)につながるドゥルーズの解釈。

・「権力は上と下が絡まり合いながら複雑な循環構造として作用している」(p.85.)とされるフーコー解釈。
・フーコーの解釈に関しては、「やっていけないことは個別具体的なことであって、「やってはいけないこと」として大括りにはされていなかった」(p.105.)という古代(及びその後のキリスト教登場による転換)について

などが印象に残ると共に、改めて学んでいきたいなと意欲をそそられました。

また、「偶然性」に関する指摘は、学問的な話を超えて、私自身を揺さぶるものがありました。多くの読者(それこそ中高生の読者)もそうではないかと思います。意図とは違うのかもしれませんが、自分の家族史や地域史をたどってみたいなという感覚にもそそられました。

すなわち、同じ土俵、同じ基準でみんなと競争して成功しなければという強迫観念から逃れるには、自分自身の成り立ちを遡ってそれを偶然性へと開き、たまたまこのように存在しているものとして自分になしうることを再発見することだと思うのです。

p.141.

その他、ポジティブな意味での規律訓練(p.167.)の側面に対する話も、逸脱と秩序の間で揺らぐ人間のジレンマを実感させられます。

最後に、著者の読書論が書かれており、自分自身の本を読む行為を捉え直すきっかけを与えてくれます。
ここ数年の私は、どちらかというと経験上「理解できなくても通読する」ということを重視する傾向があるのですが、著者の主張はそれとは異なっており、考えさせられました。

以上です。

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