論文メモ

2023年11月の論文メモ

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長田健一(2017)「社会正義志向の社会科教育に関する研究の展開と方法-アメリカにおける実証研究の事例に焦点を当てて―」『社会科教育論叢』50, 101-110.

上記論文の抜粋
これらのことから、近年は研究上の関心の軸が、カリキュラムの理論や内容の構築よりも、「どうすれば社会正義志向の社会科を実践し得る教員を養成できるか」を究明することに移ってきていると指摘できよう。

p.105.

研究結果から得られる示唆としては、社会科の学習内容に関する知識・理解の重要性が挙げられる。強い正義志向を持つ学生たちが、公民権運動など、人々が当時の法や慣習に抵抗して不正義と闘ったアメリカの歴史上の事実を挙げて自身の考えを説明していたのに対し、逆に正義への志向が弱い(あるいは反発的である)学生たちは、そうした事象に対する知識・理解が少ない傾向が認められた。このことは、個人の”良き市民”観が、単なる固定的な政治的・思想的信条というわけではなく、過去及び現在の人間社会に対する理解や洞察の深さによって左右される可能性を示している。よって、教員養成においては、教科内容に関して学生にどのような知識・理解を身につけさせるかが、社会正義志向の社会科教育を推進していく上でも重要となってくる。

p.108.

青木香代子(2019)「アメリカにおける社会正義のための教育の可能性ー多文化教育の批判的検討を通してー」『茨城大学全学教育機構論集グローバル教育研究』2, 103-115.

上記論文の抜粋
ニエト(2009)は、「多様性の肯定」とは、単に差異をほめたたえるだけではなく、不公正な政策や実践に異議を申し立てることであるとしている。しかし多文化教育をめぐる議論において、必ずしも不平等や不正義、差別に立ち向かう実践、すなわち社会正義のための教育に関する議論が十分になされてきたわけではない。

p.108.

多文化教育は、様々な文化を学ぶだけでなく、社会的に構築されてきた抑圧や差別に対抗するために行動することがめざされる教育でもある。しかし、実際には、多様性や差異の理解に焦点が当てられ、不平等や抑圧、またそれが生み出される構造は見過ごされがちであることが指摘されてきた。ニエトが指摘したように、多様性を認めることは、単に差異をほめたたえるだけではなく、不公正な政策や実践に異議を申し立て、抑圧に立ち向かうことでもある。社会正義のための教育では、抑圧の理解や抑圧が起こるレベルの交差性も重視し、抑圧を認識することにまず焦点をあてるため、Banksらの多文化教育の理論をもとにした実践でも難しいとされてきたことが克服できる可能性があると考えられる。

p.114.

佐藤仁(2020)「アメリカにおける『社会正義を志向する教師教育』に関する一考察-アクレディテーションの果たす機能-」『名古屋高等教育研究』20, 195-212.

上記論文の抜粋
コクラン=スミスの議論ならびにこれらの実践の特徴を踏まえるならば、社会正義に向けた教員養成は、一律の指標で教員養成の標準化を求める環境では機能しない可能性が高い。なぜならば、教員養成に係る既存の知識体系を教授するのみでは不十分であり、学校や地域といった文脈に応じた自律的な取り組みを展開擦る点に、社会正義に向けた教師教育の特徴があるからである。そうなると、自律的で多様な教員養成の取り組みを尊重する環境が求められることになる。

p.203.

こうした状況は、CAPEのアクレディテーションが教員養成機関の取り組みを尊重させる集団的自己規制というよりは、一定程度の質を遵守(compliance)させる仕組みへと変容したと理解できる。その背景には、特に2000年代に入ってから、教員の質、ひいては教員養成の質に対するアカウンタビリティを求める声が高まっていることがある。(例えば、Levine 2006)。そうした中では、教員養成機関の質を厳格な基準で確保し、それを外に対して示す必要があったわけである。

p.209.

磯田三津子(2021)「アメリカ合衆国の『文化に関連した指導』における社会正義の考え方-ヒップホップの教材としての意義に着目して―」『音楽教育学』, 50(2), 13-23.

上記論文の抜粋
彼女は、「文化に関連した指導」について「学力の問題だけではなく、学校が永続させている不平等に挑む批判的なものの見方を育成しながら彼らの文化的アイデンティティを受け入れ、肯定できるように手助けする」ことであると述べている(Ladson-Billings, 1995, p.469.)。このように、「文化に関連した指導」の目的には、学力を高めるだけではなく、社会問題を批判的に捉え、それを改善できる能力を身に着け、子どもたちが積極的に社会参加できる肯定的なアイデンティティを形成するという考え方が含まれている。

p.16.

「文化に関連した指導」の観点から考えると、ヒップホップは、うたう、演奏する、創作することを通して音楽の能力を高めることができる。それに加え、アフリカ系の音楽に一貫する彼らの抑圧された日常、解放や自由、平等への願いといった社会正義に関わるテーマに基づいてラップの歌詞を考え、表現することができる。こうした学習は、社会正義に向けた取り組みとして、思考力や批判的な思考を養うことができる点において意味がある。

p.21.

森茂岳雄・青木香代子(2023)「社会正義のための教師教育のスタンダード開発の視点と課題-アメリカの事例に学んで―」『茨城大学全学教育機構論集グローバル教育研究』, 6, 67-78.

上記論文の抜粋
CIPのアプローチは、スリーターが示した「民主的関与を促進する教員養成」(Sleeter, 2009)であることということができる。また、教師自身が社会的不正義について認識し、抑圧について分析すること、またそれを自分の実践に統合するだけでなく、教室外にも抑圧に対して行動していくことができる教師を要請する点も特徴的である。

p.76.

社会正義のための教師教育が目指す多様性は、Learning for Justiceの社会正義のためのスタンダードが示しているように、人種や民族の問題だけでなく、ジェンダー、性的指向、障がい、宗教、言語等、多岐にわたっている。日本においても、今後外国人児童生徒教育を担う教員養成だけでなく、多文化社会における多様なニーズに対応していけるような資質・能力の育成に必要な内容をカリキュラムに取り入れていく必要がある。

p.77.
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