読書メモ

佐々木実(2022)『今を生きる思想:宇沢弘文:新たなる資本主義の道を求めて』講談社現代新書.

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経済学者宇沢氏の生い立ちや、アメリカでの研究生活、そこから日本に帰国しようとした経緯。

アメリカ時代から連なり、日本で「社会共通資本」のアイデアが生み出される流れなどがよく分かります。

マルクス経済学に惹かれながらも、アメリカに行き、アローをはじめとする、最新の研究者集団に属しながら、アメリカ経済学自体を批判していくに至る経緯がイメージしやすくなっています。と同時に、宇沢が米国で何度も共産主義者かと批判されるエピソードが象徴的なように、米国経済の自由主義的なイデオロギーを強く感じる本でもありました。

日本に帰国した宇沢が、水俣病の問題に向き合い、『自動車の社会的効用』の本を書き、社会共通資本の考えを打ち出していく。当時の経済学者が避けていた社会的価値判断に、経済学者として大胆に踏み込んでいきます。

個人的に一番印象に残ったのは、1990年代のローマの国際会議にて、宇沢が提案している「宇沢フォーミュラ(公式)」と呼ばれる考え方についてです。

二酸化炭素1トンあたりの帰属費用ともよばれる影なる費用を、国の一人当たりの国民所得に比例するように決めて支払いし、同時に「待機安定化国際基金」を作り、炭素税収入の一部を基金にプールし、発展途上国に再分配する(pp.100-102.)。

先進国こそが多くの義務を持つべきだという宇沢の発想が公式によく表れていると思いますし、同時に、宇沢が温室効果ガスの排出権を売買する市場を創設する「排出量取引制度」を厳しく批判している理由も分かります。

アメリカ時代の宇沢のエピソードとともに、環境対策をめぐる資本主義観の対立があることが実感できる一冊となっているように思いました。

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