読書メモ

宮本みち子・佐藤洋作・宮本太郎編著(2021)『アンダークラス化する若者たち:生活保障をどう立て直すか』明石書店.

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第1章 若者問題とは何か
第2章 若者世界の分断と高校教育の変容―社会的階層移動から社会的格差の再生産へ
第3章 リスクを抱えた若者のキャリア形成支援―10代後半の若者を中心に
第4章 若者施策としての就労支援
第5章 アンダークラスを支える―弱者の技法としての静岡方式
第6章 社会的連帯経済と若者支援
第7章 若者支援と中間的な働く場づくりの可能性―K2インターナショナルグループの取り組みから
第8章 家族扶養・正規雇用の相対化から見える若者への社会保障―横浜市における新型コロナ禍前後の取り組みを事例に
第9章 日本の若者政策における「若者問題」―就労支援と複合的な困難の位相
第10章 困難を有する若者支援の法制度と自治体法政策―相談・救済・多機関連携
第11章 若者支援の政策理念―地域密着型の社会的投資へ

若者の生活保障と、それを巡る支援をめぐる論点を先鋭化させた論考が並んでいます。
本書の帯に書かれていますが、若者生活が「親の扶養と雇用による勤労所得によって支えられ、社会保障制度の陥没地帯となってきた」(p.302)という表現はインパクトがあります。
同時に従来は表面化しなかった陥没地帯が、若者問題として浮上してきた経緯についても詳述されています。

社会の標準とされる生活水準を獲得することが困難で、安定した社会関係を保つこともできない状態にある若者が、社会の問題として認識される時、若者問題となる。年齢でいうと、おおよそ後期中等教育段階から20代後半までが該当するが、場合によっては30代を含むものと考える。

p.15.

本書で印象に残った点を三点程メモしておきます。

一点目。
若者を支えるという社会的な意味についてです。
若者支援は、直感的に見ても、その理由を問わず大切なことは分かるのですが、長期的に見たときに、若者支援の社会的な意義がどのようにあるのかという点が、各所で言及されています。例えば、

若者政策が必要な理由は、社会の支え手である若者世代を「支える」ことが、若者自身のためであると同時に社会を維持するための必須条件でもあるからである。現役世代が数の上で減少しているだけでなく経済的に弱体化し、社会的に孤立している人々が増える一方で、高齢者をはじめとして「支えられる側」はますます増加している。これでは地域社会は持続しがたい。

p.35.

この表現に見られる「支える側を社会が支える責任」という論理は、社会保障制度の観点から若者支援制度を考えるべき必然性をより説得的に示しているようにも感じました。

二点目。
若者政策が雇用支援に留まらない、市民育成の射程からも論じられている点です。
私の勉強不足が主な原因という感じが特にしますが、職業的なレリバンスか、市民的なレリバンスか、といった二者択一的な議論ではなく、両者を包括的に論じていかなければいけない点が実感できた気がします。
とりわけ、韓国のソウル青年議会から、青年手当の必要性が提起され、それをソウル市長が社会批判(甘やかしているのでは、という批判含め)に負けず実行したという話が印象に残りました。若者の声、権利という議論と、若者の社会保障制度、生活保障の議論が地続きであることがよく分かります。

EUでは、2000年代に入って成人期への移行に焦点を当てる移行期政策が登場し、若者の世人機への移行時期の課題は、社会のフルメンバーとしての権利を獲得し義務を果たすことができることができるようになる準備・トレーニングであるとされ、シティズンシップの獲得や政治参加などが挙げられてきた。近年になって、急速に若者政策を推進してきた韓国でも若者の意思決定過程への参画が進み、「ソウル青年議会」が開催されたり、未就業青年の求職活動推進のための手当給付(「青年手当」)などが政策化されている。しかしながら、我が国の若者支援が必ずしも若者を権利主体として捉え成人期への移行支援として展開されて来たとはいいがたい。短期間での就労の達成だけが請求に追及され、社会の主体的な形成者として、仕事へと移行していく試行錯誤のプロセスをささえるという視点はいまだ弱い。

p.308.

三点目。
これまでの二点とも関わりますが、若者問題の実態や若者支援のニーズがより多様化しているからこそ、その支援をより包括的に行っていかなければならない、という点です。

不可視化された深刻な困難を抱える人たちの支援には、教育・福祉・労働から成る包括的アセスメント力・連携力・継続支援力が必要となる。

p.96.

その際に支援を行う上での、関係者と当事者が伴走し信頼関係を作っていく必要性が(p.210.)も現場の状況を踏まえて強調されています。

その他、各所で、若者政策の補足率のようなものが弱いことが印象に残りました。これは生活保護制度の補足率が低い問題とも関連する論点のようには思います。だからこそ、「個人の低収入というニーズに対する求職者給付」(p.211.)のシンプルな提案が必要とされる背景についても実感できました。

以上です。

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