読書メモ

【本】保城広至(2015)『歴史から理論を創造する方法:社会科学と歴史学を統合する』勁草書房.

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目次は以下の通りです。

はじめに
序章 歴史と理論:古くて新しい緊張関係
第1章 中範囲の理論:イシュー・時間・空間の限定
第2章 「説明」とは何か?
第3章 帰納/演繹、アブダクション
第4章 構造的問いと事例全枚挙
第5章 過程構築から理論化へ
終章 さらなる議論を!

本書では、歴史学と社会科学の歴史研究の論争点とそれを架橋する方法論の模索・提案が行われています。

社会科学者の側には、現実を理論に無理矢理押し込んでしまったり、自分に都合の悪い歴史解釈は切り捨てたりする傾向のあることが浮き彫りになる。また歴史学者の側には、自らの研究対象に埋没してしまい、広い見地からそれらを捉えることのメリットを軽視してしまう懸念があることが指摘される。

p.4.

中範囲の理論、アブダクション、過程追跡・過程構築など、歴史学と社会科学の華僑をするために、様々な提案がなされています。(最終的には過程構築がその方法論として提案されています)

ただ全体として、特定の地域や時代だけでなく、複数の地域や特定の時代内で何度も見られるような、理論を作り出したいという点は一貫しているように感じられました。
そのため、複数の事例分析や比較分析などが重要となってくる。ただ、どの事例を取り上げるかについても、慎重を期す必要がある点も述べられていました。

印象に残った点をメモ

一点目。
事例分析する際の事例選びをする際に、自分の主張をするのに都合のよいイージーケースばかりを選んではいけないという点です。

これはわかることには分かるのですが、自分の論文を含め、具体例や事例を出しながら説明する際に、それが本当に「イージーケース」でないと言い切れるのかという点は、改めて考えさせられました。と同時に、本書が、単に理論を作ることを重視しているのではなく、そのプロセスでの事例吟味や背景理解を重視していることがよく分かります。

もし自分の主張することに対する具体例を挙げてその根拠とする論者がいれば、われわれはその主張をつねに疑ってかかるべきである。そこには帰納的飛躍が入り込んでいる可能性は高いからである。イージー・ケースを選択するということはしたがって、帰納的飛躍から生じる議論の不活性という弊害を引き起こす。つまり事例分析に際して、なぜ該当事例を選択したのかという理由を、説得力をもっていなければならない。

102102

二点目。

一点目と関わりますが、理論構築のために膨大な時間が掛かると想定されていること。この点をどう読むかで本書の読み方が変わってくるようにも感じられました。

以上述べた「過程構築」という手法はしかしながら、そう易々とは実践に移せないことは指摘していかなければならない。それを実施するためには、膨大な資料を渉猟することはもちろんのこと、分析事例の時代状況や関係組織・制度・人物に対する幅広くかつ深い予備知識の取得が必要不可欠である。また政策形成の過程を一から築き上げる以上、先行研究に対する仮借のない批判的姿勢が求められる。ただしそのような困難な作業を成し遂げることでわれわれは、「過程追跡」アプローチにありがちな資料選択の恣意性を回避することができる。

p.138.

適切な事例を発見し、記述説と因果説を満足させることは決して容易ではなく、かなり根気強い努力が要求される。

p.157.

こちらも読むとその通りだとは思います。
ただ、仮にこのことをするとすれば、その研究者が、社会科学的なスタンスで研究をしていても、関連する歴史学書の大半を読むことが想定されるでしょうし、うまく言えないですが、その時点で、歴史学者と社会科学者の二項対立的な発想からそもそも抜ける必要があるのかなとも少し感じました。
網羅的に資料を読む必要があるという意味で、研究者として教養的で幅広い視点を前提として感じました。

私としては、本書を読んだうえで、すべての歴史研究が理論を作る必要は無いと思いますし、私自身、それをしたいとは思いません(力量不足もあると思います)。とはいえ、一つのスタンスとして、「歴史から理論を作るとしたら・・・」という主張の書を読むという意味で、大変勉強になりました。

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