読書メモ

【本】スージー・ボス,ジョン・ラーマー著:池田匡史・吉田新一郎訳(2021)『プロジェクト学習とは: 地域や世界につながる教室』新評論.

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目次は以下の通りです。

第1章 文化をつくる
第2章 学習をデザインし、計画する
第3章 スタンダードにあわせる
第4章 活動をうまく管理する
第5章 生徒の学びを評価する
第6章 生徒の学びを支援する
第7章 生徒が夢中で取り組み、教師はコーチングする
第8章 最後に振り返る

プロジェクト学習について、様々な具体事例や授業方略を示してくれている本だと思います。
プロジェクト学習とは?と聞かれたとき、この7つの要素が重要だと指摘されています。

プロジェクト計画に不可欠な七つの要素
①挑戦的な問題や疑問
②継続的な探究
③「本物」を扱う
④生徒の声と選択
⑤振り返り
⑥批評と修正・改訂
⑦成果物を公にする。

pp.94-96 .

PBLでは生徒の試行錯誤も大切だと思いますが、本書では、「学習経験を意図的に設計することは、生徒と教師がPBLの可能性を最大限に活用するための場を設定することでもあります。プロジェクトを計画する上で重要なことは、形成的評価と総括的評価の計画を含むプロジェクトの青写真を用意することです。」(p.13.)と述べられており、意図的な設計と評価のあり方が重視されているように思いました。

全体として、既出のPBL関係の本と重なる部分はたくさんあります。
ただ、PBLを始める各ステップに合わせて、事例や工夫を提示しており、色々と参考になりました。

印象に残った点をメモ。

一点目は、PBLをゼロから始めなくてもよい、先行実践に学ぶとよい、という立場をとっている点です。
教師目線から見ると当たり前かもしれません。
ただ、PBLの成功例・典型的なプランを紹介して、皆さんもぜひ挑戦してみてください、と教師に投げることもできたと思います。
でも、本書では、そうするのではなく、教師が実践する範囲を想定した授業データを取り揃えるような発想に立っている。このサポートの仕方って、結構特徴的なのではないかとも思いました。

PBLのデザインをはじめるもっとも手っ取り早い方法は、ほかの教師や実践例からアイディアを借りて、自分の教室の状況に合わせて変えることかもしれません。アイディアを借りるためには、参考になる事例を参照することが必要です。そこで、バック教育研究所では、事例を探しやすくするために大規模なプロジェクトの事例を集めたデータベースを用意しています。

p.80.        

二点目は、授業の中で「本物」の論点や専門家、地域との関わりなどを非常に重要視している点です。
「『本物』」を扱う」(p.95.)とも書かれています。真正の学力論などとも親和性を感じます。
プロジェクトが与える地域や学校外への影響を生徒に意識させることはもちろんですが、「大人を巻き込む」という発想が本書の各所で見られたように思います。

プロジェクトが現実世界にあるような学びの深さを含むものとなり、生徒のモチベーションを高め、学習と現実世界とのつながりをつくるためには、教室外にいる大人を巻き込むことが非常に有効となります。他の教師や学校の職員、保護者、さらには生徒たちやプロジェクトの遂行に大きな影響力を与えるために、地域の住民、専門家、各団体の代表などから協力を得る方法を考えましょう。

p.115.

同時に、自分たちがやっていることが、専門家(科学者、歴史学者など・・・)の行う行為と似たものであることを意識させる方針も徹底しているように思います。思考方法をトレースした授業づくりをするというよりも、その専門家の立場を絶えず意識して生徒に考えさせるという感じでしょうか。
専門家の営みに対する、教師側の理解も問われる感じがします。

学校外の事例を使って、生徒にチームで活動することの価値を理解できるようにします。科学の進歩につながる大発見、地域社会の問題解決、スポーツイベントなどのニュース記事のなかに、協働したことによって現れた成果がないかと探してみましょう。また、フィールドワークや専門家とのインタビューを計画している場合は、その人たちに対して自身の活動における協働の意義とは何かについて尋ねるよう、生徒に促します。

p.169.

「最初のうちはワクワクしているのですが、それが5週間も続くと、『もう飽きた!自分が思いついたことだけど、こんな質問にはもううんざりだ!』と、生徒が言ってしまうようなことがあります」
このようなときアーメド先生は、「科学者も同じような問題に直面している」ということを思い出してもらい、そのような状況から脱することができるように指導をしています。「これは生徒だけに当てはまることではなく、現実の世界においても生じる問題なのです」と、先生は認めています。成功した科学者は、挫折を乗り越えていくだけの忍耐力を身につけていたということです。

p.335.       

三点目は、米国のスタンダードに対応した授業づくりを強調している点です。
逆向き設計論にしろ、近年の社会科授業づくりにしても、こういうトレンドが濃くなってきている気がします。
スタンダードを柔軟にとらえて、教師がカリキュラムをマネジメント・再構成するような力が重要になりそう。そういう意味でも、単元をつらぬく課題を意識した単元開発と、プロジェクト学習の親和性は高いのだろうと思います。

なぜプロジェクトをスタンダードにあわせるのか?
教師がPBLをスタンダードに合わせると、そこでの学習経験が、時間を多くかけただけの価値に見合うものになることが保証されます。とくに、プロジェクトを優先度の高いスタンダードに沿ったものにすれば、最初から深い学びが生まれることになります。つまり、1回か2回の授業で取り組むことができるような学習課題に沿った低いレベルを目指すのではなく、プロジェクトではより大きな概念を扱い、プロジェクトではより大きな概念を扱い、複雑さを伴い、高次の思考を必要とするようなスタンダードにあわせた高いレベルを目指すことを意味します。
 優先度の高いスタンダードに焦点を当てることで、生徒がすぐに忘れてしまいそうな事項のリストを網羅することに追われるのではなく、深い概念的な理解を築くことができます。優先度の高いスタンダード(「力のあるスタンダード」と呼ばれることもあります)には、通常、関連する学習目標が組み込まれています。

p.131.

その他、具体的なプロジェクトを管理・運営していくノウハウは、豊富に語られていました。

たとえば、プロジェクトの計画表を注意しながら、時間管理をしてもらうことの重要性について。「チェックポイントとなるような課題を随所に設定しておくことは、それが大きなプロジェクトであったとしても、小さなステップの積み重ねで展開していくということを生徒に理解してもらうことになります。」(p.184)と書かれているように、小刻みな締め切りの設定の視点も大切になりそうです。
これは、プロジェクトの発表を控えた生徒に対して「実際に成果を発表する前に、失敗しても大丈夫な、練習の時間を十分に確保しておくようにしましょう。」(p.201.)という指摘とも共通します。プロジェクト成功のために、現実的な予定と練習計画を盛り込んでいくイメージだと理解しました。

その他、プロジェクト学習における多様な評価方法について。とりわけ、複数種類の評価を関連付けるべきことを述べているのが印象的でした。

プロジェクト全体で、成績や点数を一種類しか与えないということがないようにしてください。そうではなく、プロジェクトのなかにいくつかのチェックポイントを設けて、比較的小さな課題、小テストやそのほかの評価、さまざまな提出物を採点するようにしてください。 

p.239.

そして、やはりプロジェクト学習でカギとなるのは、生徒に質問したり、カンファランスを行うことだということが分かります。「観察し、質問する」(p.221.)や、「他の生徒の質問やコメントも思考を支援するために活用」していること(p.282. )、ルーブリックを使って、生徒に自分の進行中の作品をクリティカルにみるように指導するプロセス(p.339.)など、いずれも参考になりました。

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