読書メモ

中井遼(2025)『ナショナリズムとは何か-帰属、愛国、排外主義の正体』中公新書.

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ナショナリズムについて、主に量的な統計手法によって分析している本です。個人的には初めて知る情報が多く、勉強になりました。
前提として、この本は、ナショナリズムを悪と捉えきるのではなく、もう少し俯瞰して、その特性や周りとの関係、条件などを考察する本だと理解しました。以下のようにも書いています。

本書はナショナリズムを普通の人々が抱く意識の一つとして整理している。善悪ではジャッジしない。いつか消え去るべき病理としては見ていないし、かといって解放の教えだとも理解しない。どちらでもないというよりは、どちらでもある。(p.37.)

本書は、ナショナリズムを客観的に読み解く目的から、ナショナリズムをいわば「脱悪魔化」する側面があった。だがそれはナショナリズムの負の側面に目をつむることを意味しない。ナショナリズムは人類の歴史において、近代になって初めて大規模にあらわれ、同時期に派生した大規模な暴力や殺戮や悲劇と深い関係があった。ナショナリズムは間違いなく、この世界に惨劇と抑圧をもたらす側面を有している。だからこそ、いついかなる時にそれが暴走するかを知ることが重要だ。(p.221.)

ここら辺の指摘が、本書の性格を物語っているように思いました。
また、ナショナリズムを、「ネーションの一員であるという帰属意識」「愛国心やプライドのような、自分が属するネーションを肯定的に捉える思想や認識」「優越感情や排外意識のように、自分が属するネーション以外を否定的に捉える思想や認識」の三つの視点から捉える考察も納得感が多くありました。

また、量的な統計データや国際比較データを用いることで、素朴な感覚や通俗的な論理とずれるような、反直感的な知見や考察結果も豊富に記載されているように思いました。

例えば、
・愛国心やプライドを肯定的に捉える国が必ずしも排外主義と直結するわけではない点(p.61.)
・ナショナルなプライドが強いことが、公共財の再分配や環境保護や政治参加に積極的な考えを持つことに繋がるケースがあること(p.226.)
・ナショナルな意識が政治的分断を癒す効果があること(p.175.)
・移民への排外主義的な暴力が増えると、結果として、人々の移民への排外感情が増すケースがあること(p.146.)
・格差が広がる中で苦しむ人々が愛国心へと傾倒していく、とは必ずしも言えないこと(pp.113-114.)
などです。

もちろん、様々なデータを駆使している分、実態の複雑さや多様さ、本当の因果関係などはわからないこともあるのだろうと思いながら読みました。
ですが、「そういう視点もあるのか!」と気づかされる点は沢山ありました。

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