読書メモ

牧野雅彦(2022)『今を生きる思想 ハンナ・アレント:全体主義という悪夢』講談社現代新書.

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『ハンナ・アレント:全体主義という悪夢』を読了。これまで読んだ「今を生きる思想」シリーズは、人物史的に描いたものが多かったが、本書はむしろ、アレントの『全体主義の起源』自体をかみ砕いて説明する内容となっている。

本書で印象に残ったのは、全体主義が「首尾一貫した説明を与える」という点だった。そしてその説明を信じるのは大衆が愚かだからではなく、彼らに想像力があり、自らが依拠できる一貫した指針を求めているからである。愚かな大衆に対するデマや洗脳による支配だという批判は全体主義を見誤っていると指摘されていた(p.38)。陰謀が「真実」に見え、何が事実かわからないという冷笑主義が蔓延し、政治やジャーナリズムやアカデミズムに対する不信が起こる。本書では、それぞれが全体主義への一歩として示されている。

著者は、テクノロジーが発達することに伴い、全体主義が形を変えて再び登場する危険はむしろ拡大していると述べていた(p.7)。実際、本書を読んでいて、現代と既視感を感じる場面が何度もあった。ナチスの全体主義のイデオロギーが利用した、虚構と現実を結び付ける「現実世界の裂け目」から陰謀がうまれ、陰謀が真実だと信じ込まれていく。そうならないために、著者は、ジャーナリズム、アカデミズム、文学であったり、「見方は違い、目に映る景色は違っても、同じ対象を見ている」という保証(p.77)を共有することが重要だと捉えていた。

本書を読むと、条件が揃うと多くの人々が全体主義に取り込まれていきそうな恐怖感も感じる。だからこそ、そうならないために守るべき環境や、「行為」とは何かと考えさせられた。

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