『分裂と統合で読む日本中世史』を読んだ。歴史学研究において、網野善彦氏の解釈が出てきた研究史的文脈やそのインパクト、その後の中世史研究の動向を大まかに把握する上で大変分かりやすい本。本書は、多くの先行研究を挙げて研究史を説明しているが、大変読みやすい。
素朴な読者の歴史観を揺さぶっていく著者の筆力が素晴らしいと思った。例えば、「中世仏教=鎌倉仏教」「百姓=農民」というイメージがいかに塗り替えられていったかを研究史の展開に即して説明している。
大まかな研究動向として、1980~90年代に網野に代表される「地域史・社会史」のアプローチが、2000年代以降はポスト網野の時代として「国家史・政治史」のアプローチが主となる傾向にあるようだ(p.223.)。前者は「いくつもの日本」の存在をあぶりだし、後者は、「多様性を踏まえた上での統一性」を追究しているとも述べられていた。その過程で、日本の東西の関係、宗教、農業、方言などに関わる論争(例:東国国家論と権門体制論)をはじめ、様々なトピックが扱われているが、いずれも読みやすい。社会史による解釈の普及後に国家史の視点が再重視される流れは私自身とても考えさせられた。
私個人の理解としては、人々の背景や立場、利害が多様であることを前提としつつ、その複雑な状況がどう連動し絡み合っていたかを描こうとする点が、教育史研究的な文脈の動向とも近いような印象を受けた(私のミスリードかもしれない)。ポスト近代の現在において、中世的思考との類似性がある、という話(p.26.)も印象に残った。中世史研究の激熱さが伝わってくる一冊だった。