読書メモ

黒澤英典(2006)『私立大学の教師教育の課題と展望:21世紀の教師教育の創造的発展をめざして』学文社.

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『私立大学の教師教育の課題と展望』を読んだ。私立大学の教職課程改革に尽力してきた著者が、戦後の教員養成政策・制度を様々な角度から論じ、かつ、1988年、1998年の教職免許法改正などの制度改正に対して批判と提言した本。

私立大学の教員養成の意義を論じる際に、「教員養成は大学において行う」原則と「開放制教員養成制度」の原則に基づいた戦後教員養成制度の意義を繰り返し強調していた。戦前の師範学校制度による養成を乗り越える形で出てきた「開放制」の理念だからこそ私立大学の教職課程の価値があると根拠づけており、教師という専門的職業には、「常に旺盛な学問的ならびに、批判的精神と幅広い学問的教養と豊かな人間性」を必要とする(p.38.)ことや、私立が建学精神を大切にすることの重要性を指摘していた。

政策への批判をする際にも、教育学研究と教職課程の関係を論じており、「教育学とその研究の体系にもとづく領域区分とは微妙に、かつ重要な差異がある。」(p.25.)とも述べていた。それゆえ、1988年の教免法改正による教職専門科目の増加、行政介入のおそれがある科目指定変更に対して批判をしている。

印象に残ったのは、教職専門教育科目の構造の理想を論じた場面。本書では、2年次に教育の基礎的認識領域を学習し、2~3年次に、教育実践の実地研究を学んだあとに、その実践体験を内面的に理論化する「教育実践の理論研究」が必要だと述べていた(p.41.)。この実践を経た上での理論化を大学において目指す点が、個人的にも共感しつつ、そこでいう「実践」「理論」の内実であったり、各授業科目ごとの相互関連性に興味惹かれた。

その他、私立教員養成を変遷についての学びは多い。大学設置基準の大綱化による教職課程への影響や、1970年代の教職志望学生の増加と私立大学教職課程への批判等。ペーパーティーチャーについてやはり語られており、教職免許を得て教師にならない学生の存在をむしろ前向きに論じる姿勢が印象に残った。

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