読書メモ

角田将士(2023)『学校で戦争を教えるということー社会科教育は何をなすべきかー』学事出版.

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


目次は以下の通りです。

第1章 なぜ「戦争と平和」を社会科で教えることが必要なのか
第2章 社会科において「戦争と平和」はどのように教えられてきたのか
第3章 「戦争と平和」をテーマにした社会科授業づくりのポイント
第4章 「戦争と平和」をテーマにしたこれからの社会科授業に必要な3つの新視点
読書案内

「戦争と平和」をいかに社会科で教えるかを論じた本です。
全体を通して、著者が求める社会科の授業は、生徒を揺さぶり、常識的な認識を超えていくような授業。さらには、一つの物事をまさに、「多面的・多角的な見方」ができるのだと、生徒が感じられる授業であるように思いました。

そのためには、予定調和的な史料だけでなく、生徒の予想を裏切るような史料を用意しつつ、一つの物事の評価や意見が割れていることの「事実」が複数あることを実感できる史料の提示が必要になります。

戦争と平和をテーマにしているがゆえに、ある意味での「こうあるべき」といった大まかな見通しが学習者にも立ちやすく、その予想自体を批判的に再検討させていくような意図があるように思いました

第一に、生徒たち自身の見方・考え方を成長させるために、既存の見方・考え方に対して揺さぶりをかけ、思考を促している点です。ここでは、政府(軍部)の暴走にアジア・太平洋戦争の原因を求めがちな生徒に対して、大日本帝国憲法の規定(第52条)を示し、政府(軍部)に対する批判が可能であったこと、また実際にそうした事実もあったことを示して、生徒たちに揺さぶりをかけています。

p.85.

「戦争と平和」というテーマについて、こうした価値判断が分かれるような論争問題ではなく、例えば、「平和を実現するためにはどうしたらよいか」といった、解決に向けた方向性を大まかには社会的に含意されている問題(Problem)を取りあげた場合、子どもたちは結論ありきの判断をしがちです。このように社会的な解決が方向付けられている問題に対して、その解決策を考えさせたとしても、「まずは身の回りの人達に優しくしよう」といったありきたりの意見に終始し、論争問題を取りあげた場合と比べて、「浅い学び」に留まる可能性が高いと思われます。ただし、ここでは、生徒たちに価値判断をさせることのみを目的視しているわけではなく、自律的な価値判断に向けた認識形成をねらいとしています。特に、「国家による安全保障」を軸にした安保理に対して、「人間の安全保障」や地球規模での安全保障、開発による安全保障といった、安全保障の多元的なあり方に関する概念を生徒たちは獲得していきます。そのことによって安全保障についての見方・考え方が広がり、論争問題に対して自分たちなりの根拠をもって判断することが可能になっています。

pp.96-97.

平和博物館の事例も、「戦争」をめぐる各時代の比較を促す授業も、いずれもそのような意図が強く感じられて、刺激がありました。

本書のようなアプローチが扱いやすい事例とそうでない事例はおそらくあるのだろうと思います。
戦争のテーマを扱う際に、揺さぶることが許されない道徳的・歴史的な教訓に満ちた事例もあるようには想像するのですが、そういう事例を社会科で扱うのか、総合学習や学校全体で扱うべきなのか。本書の主張で言えば、社会科では社会科で扱える内容を限定して教えるべき、ということになると思います。

その点も含め、自分の教育観自体を色々と考えさせられました。勉強になりました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

English

コメントを残す

*

CAPTCHA