読書メモ

坂東俊矢・細川幸一(2014)『18歳から考える消費者と法(第2版)』法律文化社.

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目次は以下の通りです。

第1部 現代の経済社会で生きるとは?
第2部 取引被害から消費者法を考える
第3部 安全から消費者法を考える
第4部 消費者本位の社会実現のために

消費者法に関する意義や、事例などについて、初学者でも分かる書き方で、丁寧に説明してくれている本です。
契約に関する基本原則をその成り立ちから説明してくれており、法的な理解の入門書としても良い気がしました。

その過程で、民法の契約の基本的原則だけでは、消費者側が不利益を被る可能性があること、それゆえに消費者法が登場してきたことなどの経緯などが示されています。

本書の一番の魅力は、事例の豊富さにあると思います。

どのように消費者被害が起こるのか、どういう手口で追い込まれてしまうのかなどの事例も読めるので被害者の心理もイメージしやすくなっています。(例えば、不実告知や、クレジットカードのトラブルなど。)同時に訴訟や法改正を経て、各論で進展があったことも理解しやすくなっています。

また、場面設定的に「~~な場面であなたはどう思いますか?」と読者に語り掛けて来る場面もあり、考えながら読みいやすいです。例えば以下など。

「スポーツクラブの中で起こった事故については、当クラブは一切責任を負いません」。スポーツクラブの規約にこんな免責条項が規定されていたなら、クラブ内でけがをしても、治療費請求はできないのでしょうか。

p.42.


印象に残った点を数点メモしておきます。

一点目
消費者法の立法をめぐるロビー活動の意義(p.26.)であったり、消費者団体の運動的な側面(p.82.)も強調されており、消費者の市民的側面からも読みごたえのある内容となっています。
また、食の安全に関しても、自分だけではなく国外の生産地のことへの配慮した発想が訴えかけられています。

なによりもこの問題を「自分の安全」を確保するという視点だけではなく、すべての消費者にかかわる問題であることを認識することから始めることではないかと思います。

p.80

二点目
高齢者と未成年者が被害にあいやすい現状を再確認しながら、それらの人々を守る論理と本人の権利尊重とをどう両立していくのか、考えさせられます。

高齢者をめぐる法的な考え方は、介護保険制度の導入以来、「措置から契約へ」と大きく変化しています。ところが、たとえば、有料老人ホームだとか介護といった高齢化社会の進展に対応するビジネスが、高齢者あ主体的に関与できるような契約の仕組みで運営されているかははなはだ疑問です。携帯電話がいまや、中学生にまで普及していますが、その契約に親権者の同意を得る仕組みが効果的に機能していません。そこでは未成年者への年齢加国にゃ高齢者への契約締結への配慮は、あたかも契約を有効ならしめる手続きのように扱われてます。分かりやすい契約書面の整備やていねいな説明、確実な年齢確認や意思確認が取引の基盤となることを、制度として保障していく必要があります。

p.39.

ここら辺の話は、18歳成人の話とも接点がありそうです。
消費者の権利と、消費者問題の未然防止の接点をどう切り結んでいくか。大切な論点だと思いました。

三点目
様々に制度があるとはいえ、やはり消費者が訴えたり、保障を求める際のハードルは様々な場所で見受けられるように思いました。そのことについては、本書でも随所で説明がなされており、要するに現行制度に対する批判も論じられています。

製造物責任法によって損害賠償を請求する場合、製品の欠陥については被害者に立証責任があるとされています。欠陥を立証するには、何を主張し、証明すればいいのか、被害者にとっては、欠陥の立証は決して容易ではないと思われます。

p.74.

その他、
・IT社会における消費者を守る法律が現実に追いついていないような印象は受けました。これについては最新動向を常にチェックしていく必要がありそうです。
・消費者教育に関しては、「教科別で各々の事項を教えるのではなく、生活で直面する問題を考えることを通じて、各教科で扱う事項を教える教育が必要なのではないでしょうか」(p.94.)という指摘もあり、カリキュラム設計の論点として重要であると感じました。

「自分が損をしないため」の消費者の権利の話も前提としてしつつ、それを超えた政治的主体としての、消費的市民の意識も醸成しようとしている本のように感じました。

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