読書メモ

広井良典(2006)『持続可能な福祉社会:「もうひとつの日本」の構想』ちくま新書.

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目次は以下の通りです。

プロローグ 「人生前半の社会保障」とは
第1章 ライフサイクル論
第2章 社会保障論/雇用論
第3章 教育論/「若者基礎年金」論
第4章 福祉国家論/再分配論
第5章 定常型社会論/資本主義論
第6章 環境論/総合政策論
第7章 コミュニティ論
エピローグ グローバル定常型社会へ

様々な論点が扱われています。
これまで読んだ広井先生の本の論点がまとめられているという印象も受けます。

一方で、「人生前半の社会保障」という視点は、今までの私の社会保障のイメージが揺さぶられるような場面もありました。
若者の社会保障の議論は最近こそ増えているように感じます。ただ、著者が述べているように90年代は現代とは異なったと思いますし、著者の議論全体の中に埋め込まれることでの説得力のようなものも感じました。

90年代における日本の社会保障をめぐる論議は、ほぼもっぱら「高齢者」関係のものであった。高齢者介護、高齢者医療そして年金いずれもしかりであり、「介護、高齢者医療、年金について論じれば、社会保障に関わるもの」という認識が一般的なものだったのである。そうした傾向は今もなお根強い。

p.17.

あらためて「教育」と「社会保障」という二つの分野は、これまでバラバラに考えられ、統一的に論じられることが少なかった。例えば、教育のほうは主に「人生の前半」に関わるものとされ、社会保障は概して「人生の後半」に関わるものと思われてきた。

p.78.

本書で一番象徴的なのは、「若者基礎年金」構想・試案です。

「20-30歳のすべての個人に月額4万円程度の「若者年金」を支給する(義務教育年齢が終了する15歳からとすることもあり得る。)」(p.98.)という提案でした。
これからは「後期子ども」の時期(20~30歳頃など)への対応が必要である(p.90.)という視点を前提にしています。

それぞれの議論を各論的には見聞きしていたものの、社会保障という視点から包括的に論じる発想は、気付きが大きかったです。大きなビジョンで社会全体の構想をしていこうとする他の著作に共通する広井先生の独特の魅力を再認識しました。

その他、いくつかメモ。

・公的な年金制度は「基礎的な生活保障を平等に」という点に主眼を置くべきという発想。(p.61.)
・子どものケアと高齢者のケアを一緒に行う取り組みの例としての、おもちゃ美術館。(p.49.)
・現在、人々の新たなニーズや労働のインセンティブに見合った、その受け皿となりうるような新たな組織の形態が求められること。(p.142.)
・環境税を導入しているヨーロッパの国々の多くは、環境税を導入した場合の税収の大部分を、年金など社会保障の財源に使っていること。(p.174.)
・これからの日本において、新しいコミュニティや「つながり」の原理を作っていく際に、「鎮守の森」のようなコミュニティの中心にあるものの再生という発想が鍵になりうること。(p.234.)

以上です。

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