目次は以下の通りです。
はしがき
1章 社会科固有の授業理論を語ろう
2章 社会科授業で育てる子ども
3章 構造的知識の学習
4章 社会科授業における探究過程
5章 合理的意志決定
6章 社会認識の空間的・時系列的位置づけ
7章 社会科カリキュラム構造の提案
8章 概念探究過程の単元・本時設計
9章 教科内容としての「学び方」
10章 社会科教授方法論
11章 価値判断・未来予測能力を育てる価値論争授業
12章 社会認識、市民的資質の評価
13章 社会科と総合的学習・道徳の関係
社会科の授業理論をリストアップし、それぞれの特徴について説明した本です。
特に総合学習と社会科の対比をすることを通して、社会科の授業理論の固有性を際立たせています。
この本を読みたいなと思ったのは、社会科の授業作りの指導をする際に、「理論とは何か?」という問いを私自身が良く感じるようになっているから。リスト化の是非については、色々な意見はあるとは思うのですが、本書で再確認できる点も多かったです。
本書は、社会科授業者が、意図する・意図しないに関わらず、多様な理論を持っているとしつつ、その社会科理論の固有性を吟味しています。
研究の蓄積によって、社会科の授業理論は、無数に存在している。それにもかかわらず、社会科実践者の多くは、自分は理論を持っていないとの自覚のもとに、自信の持てない教師が多い。それは、日常的な実践の場で、理論を露にする機会が少ないからである。
p.13.
どのような条件下で考えていけば、固有の授業理論が抽出できるのだろうか。その一つの方法は、直接的に、「社会認識を通して市民的資質を育成する」という社会科教育の本質的目標につないでいくことである。すなわち、社会認識内容を具体的に育てることのできる理論であるかどうかが問われる。
p.17.
そういう視点から、社会科の授業理論を30個提示している形となります。
とりわけ、総合学習との対比が強調されているため、社会認識の科学性のようなものが重要視されている点が際立っているように思います。
例えば、環境問題にアプローチに関しては、以下のように述べられています。
結局のところ、環境問題のように総合的事象に見える課題も、いずれかの科学の成果に依拠して教科内容を構成しないと、常識的内容を超えることができないのである。
p.23.
森林が大切であることは誰でも容易にわかる。社会科授業において必要なのは、大切であることがわかっているにもかかわらず、森林面積が減少し続けているのはなぜかという追求である。森林の重要性と日々の生活維持のためのやむを得ない現実に関する具体的事象の認識が不可欠である。
p.36.
またディベート学習についても、以下のように述べられています。
社会科授業における合理的意志決定能力の育成においては、多様な価値判断があることを十分認識させていくことが重要である。この考え方を価値判断の授業設計に組み込む提案ディベート及び留保条件付き展開である。
p.66.
現実の社会は、純粋な原因・結果の関係の中で動いているわけではなく、種々の妥協の中で動いている。「~の条件が受け入れられるならば、~の決定をする」、「コスト負担が~までならば、~の決定をする。」といった条件検討の中で動いている。現実の社会がこのような動きをしているのだから、社会科授業における価値判断場面では、留保条件付き判断の授業を展開するべきであろう。
p.68.
その他、各理論の特徴は詳述しませんが、
印象に残った点をいくつかメモしておきます。
学習指導要領に示された内容の背後に、社会諸科学の学問構造が隠れている点。授業者はその学問構造を見極める必要がある点。(p.42.)
人間理解を深めるプロセスで人の表情が見えるようなミクロな情報も必要性(p.74.)
他者の視点から事象を捉えることの重要性(pp.84-85.)
いわゆる、認知的不協和をおこすことで、なぜといった強い好奇心を喚起できる点。(p.127.)
価値論争問題を扱う際に、子どもの体験知と論争問題との結びつきがあることが重要である点。(p.136.)
こうやってリスト化されることで選択肢を吟味できる場合もあるように思いました。勉強になりました。