読書メモ

藤原さと(2020)『「探究」する学びをつくる:社会とつながるプロジェクト型学習』平凡社.

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授業準備の一環で、久しぶりに再読。

目次は以下の通りです。

1 なぜ「探究」する学びが求められたのか
2 プロジェクトベースの学びとは何か
3 プロジェクト型学習が子どもの生きる力を伸ばす
4 「美しい仕事」をする生徒たち
5 「評価」を変えれば子どもも変わる
6 学習し、成長する組織
7 日本の学校への応用

探究に関する理論的、実践的な知見、日米のPBLの歴史、現在の特徴的な実践など、バランスよく整理して論じられています。

その上で、本書の中軸におかれているのは、米国の「ハイ・テック・ハイ」についてです。これは、「ハイ・テック・ハイは2000年にスタートしたチャータースクールである。当初高校1校からスタートした同校は地元を中心に評判が高まり、保護者のリクエストに応じるかたちで陣容が大きくなり、2020年春現在、小・中・高等学校16校までに増え、6350名の生徒のいる学校に成長した。」(pp.25-26)とされます。入学者のうちの半分近くは Economically Disadvantagedという低所得層の子どもたちである一方で、大学進学率や大学中途退学率が平均よりも大幅に良いスコアである点なども指摘されています。

印象に残ったをいくつかメモします。

一点目

評価についてです。これは全体を通して特に力点を置いて説明がなされているように思います。
評価を個別化していくことが鍵だ、と指摘されている点や、成績を評価と切り離して割り切っている点が印象的です。

ハイ・テック・ハイは、「成績(Grade)」と「評価(Assesment)」は明確に切り分けて考えている。「評価」は各教師が実施する学びに合わせて設計していくものであり、「成績」は社会から求められるものである。

p.145.

個別化がキーです。生徒は自分の学びを自分で設計することができ、自分の評価も自分でできるはずだと信じることが大事です。生徒がそれぞれの個性を生かし、力強く、より深く学ぶことが自分で出来るように支援します。評価(アセスメント)に関しては評価そのものよりもフィードバックに力を入れます。評価はどうしても成績策定のものと割り切らなければいけない部分もありますから。でも、フィードバックはその生徒の学びを前に進めるものです。学びのサイクルとしては、何かを作り、批評を受け、よりよいものを製作する、の繰り返しです。考察(リフレクション)も大事なので、プロジェクトの最後だけではなく、プロジェクトの過程の中で週間になるようにたっぷりと時間をとります。成績については、彼らがどのように時間をマネージし、仲間と協働できたかを見ています。ただ、これらはどうしても主観的なものなので、理想としては成績などなくなってしまいえばいい、と本当は思っています。

pp.106-107.

二点目。

ハイテックハイにおいても、語彙力や計算などのある程度のスキルトレーニング的なものも大切にしているという点です。これに関しては学年・校種を超えた学校全体のカリキュラム設計や、個々の学びのプロセスの個別化がどの程度図られているのかなどにも影響を受けていそうです。

「ハイ・テック・ハイもそれを踏まえ、特に小学校まではいわゆる読み書きそろばんである「リーディング」「ライティング」「算数」に関しては、中学・高校とは違って、訳3分の2の時間が充てられている。」(p.159.)と書かれているのですが、中高では基礎的なスキル学習が必要なくなるのかどうかなど、中等教育でのカリキュラム設計についても、興味が湧きました。

三点目

教員間のコラボレーションについてです。
以前に見たハイテックハイの動画でもコラボレーションが強調されていましたが、やはりそのことが同校にとって重要であると再認識できました。
総合学習を学年団での協力とみる見方に対して、専門家である教師の協働とみる見方が顕著なようにも思います。
ティームティーチング的な研究を学び直したい気持ちが増しました。

ハイ・テック・ハイのペアティーチングが非常に優れているところは、単に協働することで一人ではできないことができるということ以上に、アプローチや考え方に大きな違いのある人文と理科・数学の2名の教師が一緒にプロジェクトを設計することで、自然に教科横断的になり、深みが増すことにある。

p.179.

最後に、以下の考察結果については、私自身考えていきたいと思います。

現代的な特徴、という意味合いで説明がされているのだろうかと推察しましたが、日本の教育実践史における「教科」の位置づけを再考させる問題提起のようにも感じられました。

こうしたアメリカの事例と日本の事例を並べてみると、お気づきになった方もいるだろうが、日本は学習者の「生活(経験)」を重視した探究に優れた実践が多い。一方で、ハイ・テック・ハイの実践を含め、欧米諸国の実践では、「教材(教科)」を重視した探究に優れたものが多い。

p.227.

以上です。

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