読書メモ

半田淳子編著(2020)『国際バカロレア教員になるために:TOKとDP6教科の学びと授業づくり』大修館書店.

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目次は以下の通りです。

第1章 国際バカロレア(IB)とは何か
第2章 IBの学びと授業づくり
第3章 IBの教員養成
IB教員からのメッセージ!

国際バカロレア(IB)に関する基本的な概説と、それに関する授業づくり、教員養成の概要を紹介しています。

私自身は、IBに詳しくないこともあり、関連書に進むうえでも、基本理解のための参考になりました。

印象に残ったのは以下の三点です。

一点目。
現行の(新)学習指導要領との比較をし、IBの特色として「概念理解」が強調されている点です。
エリクソンの論にも言及があるのですが、H・リン・エリクソン他著:遠藤みゆき他訳(2020)『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践-不確実な時代を生き抜く力-』北大路書房.
などでは、概念理解と新学習指導要領の「見方考え方」の親和性が強調されていました。概念理解が現在の指導要領にどう位置づいているのか、もう一度確認してみたいと思いました。

半田(2019)でも述べた通り、IBの「指導の方法」の大筋は、新『学習指導要領』(平成29・30年改訂)で強調されている点とも共通している。・・・(中略:斉藤)・・・ただ、IBの教育をもっとも特徴づける「概念理解に重点を置いた指導」に関しては、新『学習指導要領』にも若干の記述は見られるが、その説明は十分とは言い難く、今後の教科指導に積極的に取り入れてほしい方法である。

pp.8-9.

「概念理解」は、PYPからDPに至るまでの学びを貫く重要な柱である。「概念(Concepts)」は、個々の学習内容を統合し、教科横断的な領域における関連性を示し、得られた知識を体系化する。『国際バカロレア(IB)における教育とは?』にも、「概念理解」は、「各教科における理解を深め、児童生徒が繋がりを見出し新しい文脈へと学びを転移させることを助ける(p.8)」と説明されている。

p.9

ただ、指導要領との比較を論じる上で印象に残ったのは、
学習指導要領に整合性をとろうとするIB校では、他のIB校から「内容が多すぎる」と言われるという話です。学習指導要領を読み込むことで、内容のスリム化を図るということがどこまでできるのか、という論点を内在している感じがします。

海外IB認定校や一条校でない国内IB認定校の教科担当者からは、「内容が多すぎる、もっと絞った方がよい」と言われる。IBの規定では、ペーパー1で一つ、ペーパー2で二つ、ペーパー3で三つとなっており、他のIB認定校では、例えばペーパー1の「move to global war」とペーパー2の「causes and effects of 20th century wars(20世紀の原因と結果)」を重ねて、教える内容を絞るという工夫をしているためである。しかし、『学習指導要領』とDP歴史の内容の整合性をとる必要以上、教育委員会とも検討を重ねて、現行ではこのようなカリキュラムとなっている。勤務校では、DPでカバーしていない古代史、中世史、近現代史についてはDP学習前の高校1年の段階で学習する。

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二点目。
IBの授業において、スキルの育成が重視されている点です。
知識そのものの習得ではなく、知識を活用し、概念的理解を他の文脈にも転移させていけるような点が重視されているということだと理解しました。

本実践を通して強調しているのは以下の三点である。「授業の最大の目的はスキルを身につけさせること」にあり、そのため「知識を得て増やすのは学習者の責任である」ということ、そして、「指導者は概念的理解を促し、学習者のスキルを高めさせる点に責任がある」ということである。

p.104.

日本のこれまでの数学の授業においては、学習内容の限定された条件における処理が重視され、ともすれば単純な知識のインプットとアウトプットの反復になりかねない危うさを秘めていた。一方、IBの授業においては、概念的理解を促すことや知識と同時にスキルを身につけていくことが重視されており、生徒が学んだ知識をどのように現実の場面に活用できるかに重きを置いている。現実の場面において、学んだ知識やスキルを活用することは、新たな学びへのモチベーションにもつながり、学びにおける好循環をもたらす要因になる。

p.128.

結果として、知識の習得自体は学習者の責任である、という発想も強烈に印象に残りました。
学習者に責任を移行する話は、各所で見かける話でもありますが、公教育における知識習得の役割とは何なのか、という点は考えさせられます。

まず一つは、「知識を得て増やすのは学習者の責任」という点である。・・指導する教員の責任は、授業時間内に必要な知識を詰め込むことではなく、質の高いEBL(イギリスの探究型学習のこと:斉藤註)の機会と、知識のアップデートするソースを提供することである。それゆえ、知識のアップデートは宿題、という形で行われることになる。宿題は指定された書籍や、オンライン動画などを見て、予備知識を蓄えるためのものが多い。

pp.94-95.

三点目。
本書最後にIB教員の率直な感想などが掲載されています。理論説明や授業設計の説明ではイメージしにくい話なども、ここの感想で理解できることが多かったです。

IB歴史教員の難しさは、「教科書」に書かれていることをそのまま教えれば良いわけではなく、幅広い文献に対する知識があり、適切な資料を選んで比較させたりすることで「何を根拠にそれを言っているのか」について考えさせることにあると思います。私も毎回とはいきませんが、意見の異なる二次文献を使ってその違いと共通点を比較させたり、二次文献の根拠となっている一次文献を読ませて、二次文献の解釈が適切かを生徒に考えさせる機会を設けています。

p.188.

以上です。

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