読書メモ

【本】中野耕太郎(2019)『20世紀アメリカの夢:世紀転換期から1970年代:シリーズ・アメリカ合衆国史③』岩波新書.

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再読箇所も多いですが、通読するのは初めて。
目次は以下の通りです。

はじめに
第一章  革新主義の時代
第二章  第一次世界大戦とアメリカの変容
第三章  新しい時代──一九二〇年代のアメリカ
第四章  ニューディールと第二次世界大戦
第五章  冷戦から「偉大な社会」へ
第六章  過渡期としてのニクソン時代
おわりに

20世紀初頭から1970年ごろの米国史を描いています。
印象に残った点をいくつかメモしておきます。

一点目。
20世紀初頭の革新主義時代の光と影を感じます。
「社会」や「ネイション」を意識した国家づくりの話は、南北戦争時のリンカーンの演説の話が思い出され、「ネイション」をめぐる、あの頃とのフェーズの違いを感じられます。
アメリカの島嶼政策における民主改革の話も、国内では実現できない民主主義改革の夢を支配地域で実現しようとする様子に、アメリカ民主主義への違和感が醸し出されている気がします。(戦後日本の改革は果たして・・・とチラッと連想されました。)

この20世紀最初の大統領年次教書は、なによりも国家を中心とした政治の新しさにおいて際立ったものがある。教書の前半で語られる内政改革は、「社会」という領域を意識した中央政府が、市民の経済活動や生活の物質的な安寧、そして他者との境界構築にまで関与していこうとするものだった。そうした政策の表明は、19世紀的な自由放任の経済や地域コミュニティを基盤とした共和主義的な市民館からの大きなブレイクスルーであったといってよい。ちなみにこの文書のなかで「ネイション」の語は総計48回、「社会的な」は16回も用いられていたのである。

p.ⅹⅰ.

他の列強の介入を招かぬためにも、アメリカの島嶼帝国においては、支配地域の政治・経済の安定が最重要課題であり、それゆえ洗練された統治と各種民主改革が急務だった。そしてそのことは、「世界を変革する」夢を抱いた無数の革新主義者――合理的な統治技法を求める若いテクノクラート、貧困問題に科学的な視座を持つ厚生経済学者、「社会的なもの」を基盤とした公衆衛生や環境保護に新しい意味を見出した活動家たちーーを熱帯の島々に引き寄せていった。20世紀初頭のキューバやフィリピンはさながら革新主義の実験室の様相を呈した。

p.31.

二点目。
「人種問題がアメリカ政治のアキレス腱」だったと(だと)いう意味がよく分かる内容になっている気がします。
ニューディール期においても南部の存在感が高いことや、公民権運動および人種差別撤廃への動きが、単に人道的なものではなく、国内外の利害関係の中で後押しされているということなど。

南部では、1877年に連邦軍が撤退して以来、復活した民主党があらゆる公職を独占してきた。・・・ローズヴェルトは重要な法案を通すときには必ず、南部民主党の協力を仰がねばならなかったのである。他方、南部にとってもニューディール政策はなくてはならないものだった。

p.147.

キングらの運動が惹起した地域社会を引き裂くような草の根の対立は、いまや覇権国家となったアメリカにはおよそふさわしくない旧い体質を白日の下にさらし、これを一掃する機会となっていた。

pp.200-201.

米ソ冷戦もまた、ある種の外的圧力を国内政治に与え続けた。換言するとアメリカが民主的な福祉国家を形成することは、ソ連に対して軍事的、イデオロギー的優位を保つうえで必要なことでもあった。アメリカ国内の人種差別の廃絶が、冷戦構造の中からはじまったことは、象徴的な出来事だった。

pp.239.

三点目。
60~70年代の市民権運動の一枚岩でない利害の多様性が描かれている点です。
アファーマティブアクションや、マイノリティの権利運動が、それぞれの意義はある一方で、それとは異なる集団性や属性への帰属意識と対立するような場面がみられることが分かります。
ここら辺は、以前に読んだ『未完の多文化主義―アメリカにおける人種、国家、多様性―』とも関連するように思われました。

アファーマティブ・アクションには、70年代に広く受容されたマイノリティが個人として平等の権利を求める主張とは、本来的には異質なものがあらる。ERAを要求していたフェミニストの多くがこの制度に否定的であったのは偶然ではない。つまり、アファーマティブ・アクションは、あくまでも黒人や女性といった非選択的な属性に依存した資源分配の政治である。

p.226

市民権運動がマイノリティの個人としての「権利革命」を勝ちとったことは、労働組合との確執を見れば明らかなように、歴史的な福祉国家に固有の集合性を毀損せずにはおかなかった。このとき、異なる生活文化に暮らす他者(=貧者)として、新たに人種化された黒人貧困層やシングルマザーの困窮者はなすすべもない。むしろ、70年代の黒人エリートやスーパーウーマンの登場は、福祉国家の瓦解と市場原理主義が生み出した新しい格差や疎外を見えにくくする効果を持ったかもしれない。

p.235.

以上です。
アメリカ合衆国史シリーズもあと一冊。勉強になります。

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