読書メモ

【本】永江朗(2016)『小さな出版社のつくり方』猿江商會.

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目次は以下の通りです。

アルテスパブリッシングの場合
鉄筆の場合
羽鳥書店の場合
悟空出版の場合
ブックエンドの場合
小さい書房の場合
コルクの場合
シブヤ パブリッシング アンド ブックセラーズの場合
トランスビューの場合
ころからの場合
共和国の場合
新しい小さな出版社をつくるということ

本の出版のプロセスについて、私も少し理解したいなあと思っていたところ、知人に勧めてもらって読みました。
話の中心は大手出版社ではなく、ポリシーをもって始めた「小さな出版社」についてです。関係者の声や会社設立のエピソードなどが豊かに語られているので、とても読みやすい。
と同時に、一通り読むと、今の一般的な出版業界の特質やそれに対する著者の批判的な視点を学べる本になっているように思います。

印象に残った点をメモします。

一点目。
前提として、私が出版のプロセスを理解していなかったので、勉強になりました。「取次」という言葉も知らなかったので。
例えば、出版社が本屋からの返品を恐れていること、返品に対して新しい本を出版することで損なく代替できること、ただそれによって自転車操業状態になってしまいがちなこと、などが分かります。

とにかく本さえ作ってしまえば、いちどはお金になる。それが売れる売れないにかかわらず。だけど売れない本はやがて返品される。もしかしたら書店では「即返」しているかもしれない。返品されたら、出版社は取次にお金を返さなければならない。お金を返すのを避けるために、次の新刊をつくって取次にお金を納品する。出版社はまるで偽札をするかのように本を作る。本は出版社と取次と書店の間で業界内地域貨幣のようにぐるぐる回る。いちどはまると抜け出せない地獄の自転車操業だ。

p.169.

出版社にとって最大の不安定要素は返品だ。いくら売れているように見えても、一気に返品があったら利益は吹き飛んでしまう。なにしろ「ミリオンセラー倒産」という言葉があるくらい。

p.171.

また、最近本が売れなくなったり、つまらなくなったと言われるきた背景についても著者の見解が述べられていました。出版社の従業員が減らされ、ひとりあたりの労働量は増え、余裕がなくてアイデアも生まれにくくなる。p.141.という話もありました。外側からつい批判してしまいがちですが、構造的な原因については、他業種とも通底する点があるのだろうと想像してしまいました。

二点目。
先のような出版業界に対して、本書では随所で強烈な批判もされています。
その論点の矛先は、書店や取次が自転車操業的に本を出版し続けることで、本の質を看過している点に向けられています。

佐渡島さんにインタビューした音声データを聞き返しながらいろいろ考えた。この数十年、日本の出版業界は、走るレールを間違えてきたのではないか。出版社や書店、取次といった企業の存続を優先させるあまり、肝心の本や読者を置き去りにしてきたのではないか。・・・(中略:斉藤)・・・個々の本が読者に届き、長く読まれることよりも、会社の存続を優先させようという人々が出版社を支配してきた。本を世に送り出すためにつくった出版社が、いつのまにか出版社を存続させるために本を作るようになる。書店も取次も同様、存続することが自己目的化して、手段と目的が逆立ちしてしま。「本が売れない」という状況は、その帰結だ。

p.133.

三点目。
上記の取次のシステムとは異なる出版の方法について、紹介がなされています。
一番代表格のように見えたのは、トランスビュー方式です。

トランスビューズ・チルドレン。最近起業した小さな出版社の中の一群を、私はこう呼んでいる。彼らは日販やトーハンなどの大手取次を使わずに、書店と直接取引をする出版社だ。トランスビューはそうした小さな出版社などと共同で出版案内を書店に送り、流通を代行もしている。書店からの注文を受けて出荷するので、注文出荷制という。あるいはトランスビュー方式と呼ぶ人もいる。

p.156

また、今の時代は、大きな本屋が増え、零細書店がどんどん消えていく一方で、「書店の中から、取次が決めたパターンによる配本ではなく、自分たちが売りたいと思う本だけを仕入れるところがあらわれてきた。」とも述べられています。こういうセレクトショップ型の書店が増えると、新しい小さな出版社とも相性が良く、小さな本屋のマイナーな本が流通する条件が以前より良くなった(p.224.)と言われています。

一方で、「大手の老舗出版社と小さな新興出版社」とでの、「様々な面で格差」についても言及しています。たとえば取次は大手・老舗を優遇し、零細な新興出版社には冷淡なように見えるが、大手から出る本のほうが確実な売り上げが見込め、大量の宣伝費を使って売れる。書店としても、商品回転率などを重視でき、著者にとっても、大手から出す方が収入が多くなり、雑誌掲載→単行本→文庫というサイクルも期待できる。などです。(p.75)
ここら辺の格差がありつつも、新しい可能性を模索して小さな出版社が出てきているということですね。

勉強になりました。

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