目次は以下の通りです。
序章
第Ⅰ部 進学機会の拡大
第1章 一九四〇年代の南部
第2章 大転換
第3章 南部以外での不公正、差別、そして発展(一九四〇−一九六〇)
第Ⅱ部 平等のための闘い
第4章 黒人の若者と都市の危機
第5章 人種隔離との戦い
結論 アフリカ系アメリカ人のハイスクール経験への視座
一般的な米国教育史のイメージを新たな視点から照らしてくれる本のように感じました。
この本で特に印象に残るのは以下の二点です。
一点目。
米国のハイスクールの大衆化の歴史のイメージが覆される点です。
一般的に、アメリカのハイスクール進学率は、20世紀初頭からどんどん上がっていき、戦後には大多数の生徒がハイスクールに行くようになった・・・かのように論じられることもあるのですが、それはアフリカ系アメリカ人の視点から見れば、まったくそうではないと言えます。
20世紀前半期の間、多くのアメリカ人はハイスクールに通ったが、この国の黒人の場合にそれはあてはまらなかった。黒人の初等教育への就学は拡大したにもかかわらず、1950年代以前には大多数のアフリカ系アメリカ人の若者は中等教育機関に進まなかった。
p.28.
つまり、「アメリカで皆がハイスクールにますます行くようになりつつあったとき、この国の黒人は蚊帳の外に置かれていた。」(p.4.)とされるのでした。
それゆえに、アメリカにおける黒人の若者のための中等教育の拡大は、「教育の公正のための長きに及んだ闘争の中から勝ちとられていったもの」(p.2.)だと述べられるのでした。
二点目。
第二次世界大戦後のアフリカ系アメリカ人のハイスクール進学率の増加が顕著にみられ、そのことがアメリカ教育史の定説を覆す要素がある点です。
「もし、特定の場所が黒人の教育達成の上昇にとって決定的な意味をもっているとしたら、それは戦後の南部であった。」(p.59.)と言われるように、戦後からの伸び率がすごいです。1960年代の黒人ハイスクールについて、以下のように述べられています。
全体として、高校生の年齢にあたる南部の全国人の半分以上が中等教育機関に在籍していることになった。これは、アフリカ系アメリカ人の歴史におけるある種の節目であった。この数は白人の割合の80%であり、それが三分の一を僅かに超えるくらいだった20年前からは劇的な向上であった。
p.72.
本書では、1970年代以降も、さまざまな視点で、黒人と白人間の教育における格差が減少していることを示していきます。
もちろん、相対的な意味でのアフリカ系アメリカ人を取り巻く教育環境の不十分さはなども本書で指摘されていますが、とはいえ、一気に格差が縮まっていったという点がこれまで軽視されてきたと本書は指摘しています。
その他に、印象に残った点を二つほど。
一点目。
アフリカ系アメリカ人にとっての黒人コミュニティの力の大きさが何度も指摘されています。
ほとんどの場合、改善に 向けた推進力の由来は、その表明が大人によるものであれ青年からであれ、黒人の地元コミュニティであった。アフリカ系アメリカ人のハイスクール要求運動はボトムアップに築かれたというもの言いは、かなりの程度正確なものである。この点において、それはこの時期に生じたより大きな公民権運動の一要素であるとも考えられるし、同時にアメリカの伝統として長く続く教育行政と実践における草の根主義の反映として見なすこともできる。草の根のイニシアチブがなければ、 この時期の黒人の教育達成の変化はそもそも起こりさえしなかっただろう。
p.16.
同時に、さまざまな社会経済的な状況の変化の中で、現在の黒人コミュニティの力が奪われていることを本書では最後に述べています。その上で、「わたしたちは、こうした状況におけるアフリカ系アメリカ人の教育の欠点を是正するためのいかなる「平等化」の取り組みも、インナーシティの暮らしにおける多くの困難に直面している家族を支援するような、包括的なコミュティ再生運動と連携してなされるべきだと考える。」(p.234.)と述べるのでした。
二点目。
南部で人種統合が進んだのに対し、北部や西部ほど、人種統合がうまくいかなかったという点です。人種統合政策が進む中で、白人の郊外への移動が進んだことは何度も耳にしていましたが、南部で逆にうまくいっていたという話は把握できていませんでした。
北部と西部では、人種統合への努力は、都市の人口構成の変化や「ホワイトフライト」のせいでほとんど効果をしめさなかった。抗議行動にもかかわらず、学区政策はしばしば人種隔離を助長した。通学地域は白人から黒人へと住人の移り変わりを反映して目まぐるしく書き替えられた。
p.137.
長きにわたって法的に実施された人種隔離という砦を誇った南部は、1970年代の初めまでに、教育に関して全国で最も人種統合された地域となっており、「人種的孤立」や不公正が最もはっきりと見られたのは北部の主要都市であった。
p.205.
本書全体で、地域ごとの違いを感じる場面が多かったです。
その問題がどこで起きたのかという場所に注目することの重要性を感じます。
勉強になりました。