本書の目次は以下の通りです。
第1章 人はなぜ服従しがちなのか
第2章 忠誠心は美徳か
第3章 本当に「しかたがない」のか
第4章 私たちは何に従うべきか
第5章 どうすれば服従しないでいられるか
第6章 不服従の覚悟とは何か
2023年最初の感想メモですね。
本書は、「政治」という現象を、「服従」や「従順さ」、そしてそれとは反対の「不服従」や「抵抗」というキーワードを中心に考察している本です。
とても読みやすく、それでいて、新しい視点から政治を捉えなおすことが出来ました。
「政治が身近である」という話自体は、近年様々な場所で聞かれるようになりました。政治は家庭の中にあるとか、学校のなかでもあるとか。
でも、本書では、「権威」という視点から日常を捉えなおしているが故に、新鮮な内容のように思えました。
「政治」は国会議事堂や霞が関の官庁で国会議員や官僚たちが行っている仕事だけを意味するのではありません。・・・(中略:斉藤)・・・本書で論じる「政治」とは、何者が権威として立ち現れ、人々がその権威に服従すべきだと考えるような状況を意味します。
p.24.
権威が存在するところでは、権威に対して服従が求められます。あなた自身がほかの人々にとって「権威」として振る舞う以外、あなたは、誰かの権威に服従することが求められているはずです。その権威とは、家庭では親であり、学校では教師であり、会社では上司です。
p.25.
日常における政治を、単に利害対立や合意形成の場として捉えるのではなく、
服従させようとしてくる権威と自分との関係の中で、捉えています。これ、面白いし、今の若者にとって響く視点のようにも感じました。
その他、印象に残ったことをメモします。
一点目。
怒りを表現すること、更には必要に応じて暴力に訴えることの意味について論じています。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、適切な対象に対して、適切な時に怒りの感情をもつことは称讃に値することだと論じています。怒るべき事柄について怒らないのは、性格の面で、深刻な欠陥があると指摘しています。政治はすべての人々に関わる公共的な問題である点で極めて重要です。政治において何らかの不正が行われていると考えるのであれば、これに対して適切な仕方で怒りの感情を表すことこそが「称賛に値する」のです。
p.114.
この話は、感情的になる勇気を与えてくれるように感じました。
また、黄色ベスト運動を例に出しながら、「本当に暴力は「絶対に」いけないことなのでしょうか。」と述べ、最終手段としての暴力行使の意義についても指摘しています。(pp.181-182.)
これまで、暴力の(肯定的な)意義について、今までしっかりと考えたことがなかったため、印象に残りました。
二点目。
安易に周りに迎合せずに自分で判断するには、苦しい経験をすることも多いこと、でも、そういった経験を通して、人はアイデンティティを構築するのだ、と述べている点です。
そうした苦難の体験の積み重なるところに、そうした人々が生きる社会もまた思慮分別を獲得するようになるのです。」
p.209.
不服従の果てには、様々な苦難が待ち受けているとはしても、最終的に「自分自身」を獲得できる。
pp.209-210.
権威や多数派に対して従順に服従するのではなく、自分自身で「選択」することとは、ほかならぬ自分自身のアイデンティティを確立し、それを守り抜くことです。
p.210.
周りに流されず、自分自身で選択することの積み重ねによって、「自分自身を獲得できる」とか、アイデンティティを守り抜くことが出来るという点、非常に強いメッセージのように感じました。
また、「Noというべきことをはっきりと拒否できる人だ下が、Yesというべきことをはっきりと肯定できる。ということです」(p.211.)という指摘もそうですし、リーダーや組織に苦言を呈すること、つまり従順でないことが忠誠心の現れであると言えるという話(p.82.)も含め、自分自身の決断や選択の重要性を強調しているように思いました。読者に刺激を与えること間違いなし、という感じがします。
市民的不服従の思想を含め、今後も学んでいきたいと思える内容でした。