読書メモ

【本】小薗崇明・渡辺哲郎・和田悠(2019)『子どもとつくる平和の教室』はるか書房.

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目次は以下の通りです。

子どもと一緒につくる平和の教室―暴露・告発型から思考する「平和教育」へ
なぜ、長野県の人がつくば市まで来て芝畑を作ったのか
教室で出会う沖縄
善良な父や兄弟が、戦地で人を殺めてしまったのはなぜか
浅川巧から見た日本の植民地支配
武力で平和は保てるか
戦場に送られた民間人
なぜ空襲でも逃げちゃいけないのか
インタビュー 地域を知ることは生徒を知ること―二人の元教員の経験に学ぶ
ハジチを禁じられた沖縄女性の葛藤
自殺は自己責任なのか
安房の高校生から始まった平和活動
大学生が空襲体験を学び、伝える

戦争や平和の問題をいかにして教えるか。
そのことを分厚い実践記録をもとに示した論考が豊富に掲載されています。

教師の豊富な知識を背景に数多くの歴史的、社会的な事実を子どもの前に提示し、戦争や暴力の実態を暴く授業が「暴露・告発型」の授業とされ、その抑圧的な性格があることが指摘されています。
その上で、本書では、子ども自らの興味関心や問題意識にしたがって歴史や社会の現実について具体的に考え、それを実際に教室で表現することの自由を豊かに保障しようとする問題意識(p.13.)が根底にある問題意識とされています。

暴露・告発型の「平和教育」の問題点は、子どもが歴史や社会のなかに身を置いて考えるという状況的な思考を促さずに、現在の正義に子どもの視点を固着化させる、視野を封じ込めてしまう点に最大の問題があるといえる。人間はさまざまな歴史的、社会的制約のなかで生きている。そうした制約を課している社会秩序を意識してとらえ返し、他者との関係性のなかで自由かつ平等な生き方を求めるところに人間らしい平和的な生き方があるはずだ。そうであるならば、思考する「平和教育」は、歴史や社会のなかで人間がその行為を規制する規範なり文化を問題にしようとするところにはじまるといえるのではないだろうか。

p.17.

印象に残った点をいくつかメモ。

教材研究の方法や、授業作りについての工夫がいくつも示唆がありました。

教材研究の方法として、「自治体史を活用した教材発掘法」(p.81)が紹介されていた点もそうですが、「地域に根ざした平和学習」を目指すにあたり、歴史から消させた多くの史実を地域から掘り起こす実践が紹介されていたこと(p.222.)には刺激的でした。1950年代の郷土教育史的な社会科実践を彷彿とさせる印象です。
東京大空襲に関する学習を活性化したのが体験者との出会いと展示制作で会った話も(p.252.)、資料館・博物館との連携の重要性を感じます。体験者とコンタクトをとったり、展示のあり方を学べるのは資料館・博物館である。

提案される授業も、単純に二項対立的な思考を促す実践は少なく、多数の資料を読み取り、具体的な素材を追求しながら、戦争を考える事例が多かった気がします。そして、そういった具体的な追究の過程にこそ、教材研究の分厚さを感じます。

浅川巧自身が、朝鮮民芸の研究者、朝鮮総督府に勤務する林業技術者という違った立場を持っており、二項対立におちいらず、多項対立で議論が進んだことは生徒の深い思考に影響を与えたと考えられる。また、浅川巧という具体的な人物を取り上げ、彼や彼を取り巻いていた多くの人々の視点に立って議論できたことで、政治情勢の開設に傾斜することなく具体的に考えを深めることができた。

p.101.

その他、
・戦争の歴史の学習した時は、戦争を憎み、平和を願う感情を強く持つが、公民学習の世界平和の学習の時には、平和を願うだけでは不十分で、理想論に過ぎないと考える生徒がおり、歴史と公民の接続を図れる授業が求められていること。(p.109.)
・「国家の論理」を相対化するため、歴史学の成果に立脚しつつ、戦争の実態、社会的背景(社会構造)、戦争に直接・間接に関わった人々の心情などを想起さる実践が展開されていたこと。(p.128.)
・教科書見開き1時間の授業で使える面白いネタは、いろいろな実践集で紹介されているが、単元全体で何を子どもに考えさせるべきなのか、単元全体の核になるテーマについては実践集に頼ることはできず、最後は教師の教師観が問われるということ。(p.265.)
・一年間かけて沖縄学習を続けていくような実践をする際に、歴史学習と総合的な学習の時間との連携が可能性になること(p.62.)
・生徒が戦争に関する調べ学習をする際に、沢山の図書情報を提供することは重要であるものの、インターネットの使用は危険であること。(「戦争認識が政治問題化している昨今、ネットで子どもたちが理解できる情報が入手できると思えないため」)(p.69.)

なども参考になりました。

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