感想メモ

【本】白井俊(2020)『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房.

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目次は以下の通りです。

序章 コンピテンシーに関する議論の展開
第1章 2030年の世界
第2章 Education2030プロジェクトの背景と議論の経過
第3章 エージェンシー
第4章 2030年に求められるコンピテンシーの要素
第5章 2030年に求められるコンピテンシーとその基盤
第6章 カリキュラム分析とデザイン原理
第7章 国際的なカリキュラム課題への対応
終章 これからの日本の教育を考える

OECDが世界に影響を与えた「キー・コンピテンシー」から15年以上たちますが、本書では、OECD Education2030プロジェクトにおける構想や特徴について詳細に語られています。

日本の学習指導要領の背景的な理解をする上でも大変参考になります。

読んでいて、以下の四点が印象に残りました。

一点目

コンテンツとコンピテンスの対立的な見方を避けようとしている点です。実際、「近年の教育改革の中には「21世紀型スキル」を強調するあまり、知識の軽視につながりかねない動きが見られることから、近年では、これに対する反動として、知識の重要性を再評価しようとする動きが見られる。」(p.100.)とも言われています。同時に、そこでいう知識の構造のようなものの重要性も改めて強調されています。

コンテンツとコンピテンシーは、しばしば二項対立的に捉えられることがかるが、本来、良質なコンテンツを通してコンピテンシーを育成し、さらに多様なコンテンツをより深く学んでいくという好循環が働くことになるのであり、両者は相互に高めあう関係に立つものである。コンピテンシーを重視するとしても、コンテンツとコンピテンシーが二項対立で捉えられてはならないことについては、あらためて留意したい。

p.24.

重要なのは、知識の断片ではなく、構造化された知識であって、そのためには、カリキュラムが、各教科の学問原理 (ディシプリン)に基づいた順序性や体系性、 学習の過程に照らして適切なものとなっていることであり、そうした観点に留意することが求められるのである (OECD, 2017a)。

p.106.

二点目

教育全体において、倫理的な判断力のようなものを求める傾向にある点です。
これはAI技術の発達が起こる中での人間の役割ともかかわってくるのかもしれません。
結果として、より教科横断性が出てくるように感じました。
同時に、倫理的、道徳的のような言葉が使われていますが、一つ一つの言葉を吟味していきたいなと思いました。

第二に、 態度及び価値観は、コンピテンシーを発揮していく際の「指導原理 (guiding principles)」 として機能する。このことは、とりわけ AI技術が発達し ていく中で、特に人間に期待される力でもあるとされている。 例えば,批判的 思考力を発揮するということは、複数の選択肢について妥当性を評価したり、その中から最適と考えられる選択をするといった認知的プロセスであるが、そ うした判断は、何らかの基準にしたがって行われることになる。すなわち、 様々な場面や文脈において、「何が正しいのか、正しくないのか」「何が良い ことなのか悪いことなのか」といった倫理的な判断を伴うのでありそうした判断をする際の「指針」が必要になるのである。

pp.136-137.

新しいルールを作っていくうえで重要になるのが、倫理や道徳である。 倫理や道徳の基盤がなければ,どのようなルールを作るべきか、作ろうとして いるルールが妥当なものかどうかを判断することができない。 自分自身の考えだけでなく、多様な他者の考え方や社会的・法的な規範を理解していくことが 不可欠である。 教師やクラスメートとの関係性はもちろん、PBLなどの機会 において、より多くの他者と協働することも重要だろう。学校教育を通じて、 多様な他者の考えを聞いたり、協働したり議論したりする中で、生徒一人一 人が、それぞれの倫理的基盤を築いていくことができる。

p.231.

三点目

知識の転移が重視されている点です。

これは、カリキュラムオーバーロードの話とも深くかかわっており、網羅的に学ぶのではなく、いかに、深く学び、汎用性のある視点を獲得するかという点が重要視されているように思いました。

金融リテラシーを身につけるために学校教育で金融を扱うことは、必ずしも最適な方法 とは言えない。 金融リテラシーを高めるために必要なのは、必ずしも金融に関するコンテンツを追加することではない。重要なのは、様々な文脈や場面において活用できる、 すなわち, 「遠い転移」 (pp. 106-107参照) が可能になるよう なコンピテンシーを身につけることである。もともと、コンピテンシーの考え方は、単に特定の内容をカバーするというよりも、そこで学んだ内容を別の文脈や場面にも活用して、何ができるように なるのかということに焦点を置くものである。 カリキュラムをデザインする際に 「転移可能性」 を重視したり (pp. 197-200参照)、 ビッグアイディアや キーコンセプトのような考え方を採り入れていくことも考えられるだろう (第4章第1節及び第7章第1節参照)。

pp.233-234.

四点目

態度や価値観も重視する21世紀スキルが、各国の文化的コンテクストと関連づけて捉えているという点です。

例えば、「エージェンシーという概念自体が、それぞれの個人的な見解や文化的なものを含め、その人の背景を反映しながら、 論者によって異なる形に定義されたり、用いられてきた」 (OECD, 2017a) のである。」(p.91.)とされます。21世紀スキルのような発想も日本で伝統的な「知・徳・体」のバランスの取れた育成と類似している点などが指摘されています。

こういった説明の意図は分かりつつも、日本の文化的伝統と現代的な潮流の違い、日本の文化と称されるものの課題点も含めて、改めて考えていきたいところだと感じました。

各教科等の授業 や学校行事、掃除や給食の時間、部活動などを含めて,学校教育は,日本人の 態度や価値観の形成に大きな影響を与える経験として、伝統的に継承されてきたと言えるだろう。

pp.130-131.

その他、

・DeSeCoの場合には既に他国や他国の研究者らの参加によって作成されたものを、日本としてどのように受け止めていくかということが中心になっていたのに対し、 Education2030 の場合には、日本の行政官や研究者、教師や生徒も含めてOECD 事務局や他の参加国と共同しながら当事者として作り上げていったものであること(p.30.)

・2030年の世界に関して、「生徒一人一人にそれぞれの学習経路 (path) があり、また、学校に入る段階でも、それぞれの家庭環境などの違いによって,既に知識やスキル、 態度などが異なっている」という非線形の発達モデルの話(p.55.)。

・プロジェクトの「意図されたカリキュラム」のデザイン原理として、① 一貫性 (coherence)② 厳格性 (rigor)③ 焦点化 (focus) ④転移可能性 (transferability) ⑤真正性 (authenticity)の五点が挙げられていること(pp.197-198.)

なども参考になりました。

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