目次は以下の通りです。
序章 わが国における社会科成立史研究の課題と方法
第1章 戦時期アメリカの対日教育政策と社会系教科目の取扱い
第2章 総司令部(GHQ/SCAP)の教育政策と修身,国史,地理の停止指令
第3章 文部省内外の動きと三教科目の在り方の反省
第4章 社会科成立過程にお ける 『アメ リカ教育使節団報告書1
第5章 社会系科目の改革。再建過程
第6章 社会科実践及び社会科研究の芽ばえとその方向
第7章 総合社会科導入の過程と背景
第8章 社会科の選択科目の導入と社会科体系の樹立
第9 章 作成された社会科の教科書
終章 わが国における社会科の成立過程の特質と社会科成立の意義
日本の社会科成立史研究の重要文献です。
同時に、これまで各所を読みつつ、通読できていなかったのですが、今回読み通すことができました。
ひとまず、圧倒されました。
日米の史資料の収集はもちろん、社会科成立前史的なものを含め、無数に広がる社会科成立への流れを読み解き時系列の流れとして説明していく。同時に、日本の地方や学校現場での反応や、主要な実践まで読み解く。
参考文献や引用を見ただけでも、そのすごさに圧倒されます。
本書を読んで一番印象に残るのは、社会科成立をめぐる日米の関係者のかかわりや駆け引きなどを資料に基づき説明している点です。
これは、教科教育史研究はもとより、教育史研究全般や日本史研究につながる論点であることは、私でさえ理解できます。様々な論争点を内包する解釈を史料に基づき論じられています。相当の覚悟をもって刊行されたのではないかと思います。
全体としては、一方では、米国関係者側も、日本人にできるだけ書いてほしいと思いつつも、懸念や不安を感じており、他方では、日本関係者側も、米国関係者の要望を踏まえて議論しつつも、ここだけは自分たちで決めたいという点はギリギリで抑え切ろうとしている構図が感じられます。
後者に関しては、重松と勝田が学習指導要領試案の「この総論の部分は、CIEの資料にはたよらないで、私たちの考えでつくりあげよう、ここでは本質的な譲歩をすべきではない、ということが、大前提であった。」(p.672.)あたりが一番の代表的場面のような気もします。
前者に関しても、『公民教師用書』や『くにのあゆみ』『民主主義』も含め、何度も何度も議論や説得、調整を繰り返して、いわば日米の合作のようなものになっていることは分かります。
日本側の考えも多様であることを前提にしつつ、日本側の強い主張が反映されるケースが複数見られるのが印象的です。占領下の教育改革の意味を学ばねばと深く思いました。
見落とせないのは、学習指導要領と教科書は日本人自身の手によって作成されるべきだという考え方に立ちながらも、そのためには、最低5名のメンバーが必要で、選択科目についてもそれぞれ5名ずつの三つの委員会を必要とし、そのことが無理なら、次のような代案 (Alternatives) も考えられるとしている点である。オズボーンとボールズは、国語や数学や理科などは既存の教科なので締切日までに間にあうだろうが、社会科は何分にも新しい教科なので果たしてだいじょうぶかどうか、危惧していたのである。
p.679.
また、そういった調整の中で、最終的に完成する1947年版の学習指導要領試案への道のりは、妥協の産物であったという点も、同時に理解できました。総合社会科の導入と国史の存続がいわば取引のように決まったというのがその代表例かと思います。。
以上、社会科の導入問題を中心テーマの一つとして展開されてきた新教科課程案作成への道のりを、その観点から振り返ってみると、結局は、総合社会科の導入と国史存続の問題を切り離し国史については,これを単独の内容教科として存続させる方向に落ち着く。 総合社会科で中等教育段階まで貫きながら、義務教育段階に国史をセパレートな形でおくという案であった。 これは、CIE側と文部省との間の一種の妥協として成立したものであったが、理論的にみても、妥協の産物に外ならなかった。
p.651.
また、高校の西洋史の教科書の草稿内容への米国からの大批判を含め、国内外の政治動向を受けながら、社会科成立史が読まれる必要があることも再認識します。
その他、本書の情報量が多くて理解不足な点もあるのですが、いくつかメモしておきます。
・教科名を公民科にするか、社会科にするかで最後までもめていたこと(p.656.)
・オズボーンがコアカリキュラム運動やコアカリキュラムについて、快く思っていなかったこと。(p.830.)
・CIE教育課側にとって、大教科制としての社会科のあり方が重要視されていたこと。(pp.791-793.)
・社会科と他教科の学習指導要領試案の作成手順が大きく異なっていたこと(p.694.)
・1946年時点で旧制高校で社会科が導入される動きがあったこと(p.630.)
・『くにのあゆみ』は、歴史教育観、歴史観の大きな転換を迫るものであり、戸惑う現場教師が多くいたこと。(p.455.)
・CIEのワンダリックが、戦前地理教科書の中に社会科の可能性を見出していたこと。(p.121.)
また少し時間がたったら読み直してみたいと思います。