感想メモ

【本】小泉悠(2021)『現代ロシアの軍事戦略』ちくま新書.

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目次は以下の通りです。

はじめに―不確実性の時代におけるロシアの軍事戦略
第1章 ウクライナ危機と「ハイブリッド戦争」
第2章 現代ロシアの軍事思想―「ハイブリッド戦争」論を再検討する
第3章 ロシアの介入と軍事力の役割
第4章 ロシアが備える未来の戦争
第5章 「弱い」ロシアの大規模戦争戦略
おわりに―2020年代を見通す

ロシアの軍事情勢や戦略について詳しく記載されています。
そして、その背後でのロシア国内でのプーチン政権の位置づけの変化、国際的なロシアの地位の変化などについても、様々に論じられており、様々な点で参考になります。

また、「ハイブリッド戦争」とも呼ばれる、目に見えない情報や電磁線などによる戦い方なども紹介されつつ、同時に、スプリチェンコによる戦争の世代区分(p.79.)に代表されるように、戦争や兵器に関する段階や徐々に変化していきていることなども説明されています。
ウクライナ危機の戦い方を含め、「戦争」の条件とは何かという点で、考えさせられます。

一体何が起きているかもはっきりとしないまま、さほど大きな戦闘が起きたり、多数の死者が出るわけでもなく、行政機関やインフラが占領され、ある領域が国家のコントロールを離れてしまう。一部ではロシア軍の姿も見え隠れするが、表に出てくるのは現在の住民や素性の知れない「政治家」であり、彼ら自身がウクライナから独立やロシアへの併合を叫んでいる。そうこうしている間に法的正統性のない「住民投票」が始まり、勝手にウクライナから「独立」したり、ロシアへの「併合」が決まっていく。これを軍事力で奪還しようにも、前線ではロシア軍の強力な電磁波作戦能力で軍事作戦が麻痺・混乱させられ、後方地域はドローン攻撃やサイバー攻撃に晒される。これを戦争と呼ぶべきかは難しいところだ。         

pp.54-55.

また、そのようなハイブリッド的な戦争にロシアが切り替えてきた背景として、古典的な指標で測った場合のロシアの軍事力は、質量の両面でNATOに劣勢であったことや、その中で、大国間戦争に備えてロシアがいくつかの戦略(電磁波戦略などもその一例。そのほか、「損害限定」戦略。「エスカレーション抑止」など)に注力していることなどが説明されています。。

本書を読んでいて印象に残ったのは、ロシアが国外に侵攻する際の、ロシアの主観的な認識についてです。これは、現在起こっているウクライナへの侵攻とも直結するのだと思われます。

ロシアの主観では、2014年のウクライナ介入も侵略とはみなされていない。それはロシアの「勢力圏」を削り取ろうとしたウクライナ政変を画策した米国への反撃なのであり、自衛行動と位置づけられるのである。同様に、2016年の米国大統領選に対する介入は、西側が常々行ってきた旧ソ連での民主化支援を真逆にしたものであり、ロシア国内の言論統制、インターネット監視、反体制の弾圧といった権威主義的政策も、西側による「戦争」からロシアを守るものとして理解される。少なくともロシアの世界観においては、攻守の両面で激しい非軍事的闘争が繰り広げられているのが現在の世界であるということになろう。     

p.17.

もちろん、ロシアは欧米諸国に対して恒常的なサイバー攻撃や情報戦を仕掛けているとされるのですが、ロシアから見れば、西側諸国から絶えず類似した攻撃を受けている、と感じている。ただ、同時に、ロシアが「攻撃されている」と感じていることに、西側の人々は必ずしも気づいていない場合も少なくない。結果として、安全保障のジレンマが発生してしまう。この構造や認識のずれが泥沼を生み出してしまう。この点が非常に印象に残りました。

西側が行ってきたロシアや旧ソ連での民主化支援がロシアをいらだたせ、実際に体制転換や反体制的な組織の活動に繋がってきたことは事実であるとしても、西側がこれをロシアに対する攻撃と認識していないのであれば、ロシアによる「戦略的抑止」は逆に攻撃と映る。このような悪循環繁が2014年のウクライナ危機で最高潮に達した。ロシア側はこの出来事を西側による「非線形戦争」の最新事例と見做し、西側は西側でロシアが「ハイブリッド戦争」を仕掛けてきたという認識を持ったからである。「抑止」のつもりで行ったことが相手の脅威認識を高め、反作用を生んで、それがさらなる「抑止」手段の強化へとつながる――現在のロシアと西側の関係性には、「安全保障のジレンマ」とよばれる悪循環の典型を見出すことができよう。

pp.104-105.

著者自身は、日本の対ロ政策に関して、「「西側の一員」としての日本の立場を固め直すということだ。」(p.294.)と述べています。

現在の国際情勢下におけるロシアと西側諸国との認識のズレや泥沼化の原因の一端が感じられる本です。
自分自身に出来ることは微力ですが、関心を持つことは大切だと感じています。

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