感想メモ

【本】田村学・廣瀬志保(2017)『「探究」を探究する―本気で取り組む高校の探究活動』学事出版株式会社.

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目次は以下の通りです。

第1章 高校での「探究」のこれまでとこれから
第2章 「探究」実践例17選
第3章 “編著者対談”田村学×廣瀬志保 高校も「探究」モードへ

高校での総合学習(総合的な学習/探究の時間)の実践例を豊富に兼ねそろえた本です。一つ一つの実践が6~8ページ程度に収まっていて、それでいて、エピソードも豊富で、とても読みやすいです。授業の資料としてかなり助かっています。
また、実践事例の前後に出てくる解説や、対談の話も、事例と併せてみると気づかされる点が多く、とても参考になります。

幾つか感想メモを残しておきます。

一点目
実践全体を通して思うのは、三年間の全体計画の中で実践が行われている例が多いことです。とりわけ、大きなテーマを探究して事例が多いように思いました。

目標を達成するにふさわしい、具体的な三年間の全体計画を練る。探究サイクルを何度も経験させるか、探究課題(テーマ)をどのように設定するかである。探究サイクルの回数は、探究の基礎を学ぶことに主軸を置いたサイクルを1~2回経験させた後、各生徒の「探究」を長期にわたって行う例が多い。途中、フィールドワークとして修学旅行や海外研修の時間を組み込む高校も増え、探究プロセスに位置付けられる事例も見られる。

p. 23.

二点目
やはり、グループごとのプロジェクト的な活動が多い印象を持ちました。中には、学年を超えた縦割りの活動を行っている学校もあり、面白いです。

林野高校の総合学習(MDP)の特徴は学年を超えた縦割りグループによる活動にある。全校生330人余りが10のグループに分かれ、さらにグループごとに活動チームを作る。12年度は32チームで1チーム約10名であった。どのチームにも1年生から3年生までの生徒がバランス良く配置されていて、チーム内では全員に役割分担がある。3年生1名を相談役(リーダー)、2年生1人をマネージャー(副リーダー)として、他のメンバーは議事録、発言者、働き手などの役割に割り振られる。チーム内での協同的な取り組みが自然にはぐくまれていく。

p. 32-33.

2年生の総合学習は金曜日の6・7校時に連続2時間で行われ、京都こすもす科共修クラスと普通科の計6クラスの生徒がクラスの枠を超えた研究集団(ラボ)を作って課題研究を行う。1年生の10月には希望するラボを選択して、「生活環境」「文化環境」「自然環境」「国際環境」の4分野、17ラボに分かれる。ラボの開講時には、京都大学から講師を招き、「探究学習の課題をどのように見つけるか」「探究活動をするとはどのようなことか」などを具体的な方法や、21世紀の社会で求められる力を養うための時間であることを聞いた。ラボの人数は15名ほどで、その中にはさらにテーマごとに版を作り、8月までにはテーマを決定し、調査をして、9~10月にはラボごとに中間発表会を行う。その後、内容を深めて、1月までには研究をまとめ、2月には公開のポスター発表を行う。

pp. 130-131.

三点目
総合学習の活動が、結果として地域を元気づけたり、地域側からのリアクションがあるという例が豊富に示されていました。「社会に開かれた教育課程」とも言われますが、ここらへんの学校と地域との距離感が一つのカギになってくるようにも思いました。

地域の魅力研究チームは、地元の農業体験や「むかし倉敷ふれあい祭り」への参加をプラントする地域活性化観光プランニング「ええじゃろ田舎ライフ~旬を採る、食べる、売る~」で第4回全国甲子園観光甲子園の特別賞・日本ヘルスツーリズム振興機構理事長賞を受賞した。高校生による、グリーンツーリズムを活用した地域活性化への挑戦は、旅行業関係者に大きな希望として映ったようだ。

p. 36.

地元の自治会長は「林野高校生が地域を盛り上げてくれているぶん、わたしらも生徒を育てようという態勢でいる」という言葉の通り、文化祭のクラス対抗の寸劇のエキストラに、熱い中、参加したという。

p. 37.

香美町教育委員会の森脇俊晴教育長は「地域行事に子どもが参加しづらい時期があった。しかし、村岡高校では生徒に使命感を持たせ、地域に密着した取り組みをはじめた。大きな変化を感じる。イベントスタッフとして参加する高校生の行動力は、すでに地域の担い手だ。小中学生の見本にもなっている。地域の大人も頼りにしている」と話す。

p. 51.

四点目
総合学習を通して、自分の進路選択の意思をより明確なものとする、という事例が複数出てきます。大学進学や就職活動のいずれにおいてもです。高校の探究学習の強みがここにあるのかなとも感じました。

3年生の邊見聖君はこの活動を通して地元の魅力を再確認した一人である。「高校入学時には、電車もなくバスも1時間に1本と不便な所で、面白くない田舎だと思っていた。でも、活動していくうちに、人の温かさ、食べ物のおいしさ、何より、地域のことを考えて頑張っている人がたくさんいることを知った。帰ってきて町おこしをしたい」。4月からは広島大学人文学部日本史専攻に進学する。大学では研究の仕方を学び、いずれは地域の歴史を究明したいと語る。

p. 52.

私もはじめからやっていたわけではなく、転勤先で総合学習担当になったことがきっかけでした。そこでやってみたら、生徒の変容が見えたんです。そんな私自身の経験を裏付けるように、取材を続ける中で「総合学習があったから今の進路を選びました」と言う生徒が本当に多いことにお届いています。そうした発言が出るのは、総合学習では自分の興味・関心に応じて課題設定をして、学びを深めることができるからだと思います。そして、その姿を見た教員が新たなやりがいを感じ、授業全体を見直すことに繋がります。さらに、総合学習で学んだテーマを大学でも続けているとか、総合学習での経験が大学でも活きているとか、そういう話がとにかく多いです。総合学習がきっかけで仕事や大学を選んでいる生徒たちがいるということもわかりました。

pp.176-177. 廣瀬氏のコメント

五点目
総合学習を運営するための学校内での組織づくりや教職員間の協働のプロセスについて、いくつもの事例が紹介されています。教員同士が年を追うごとに協働方法を変えていくような話も出てきたりして、試行錯誤の連続であることが良く分かります。

総合学習のカリキュラム改善は校長のリーダーシップのもと、教員のランチミーティングや先進校視察など、前年度から計画的に準備された。管理職と研修企画部を中心に好事例を同校の現状に合わせてアレンジしながらの開発だった。4月からは学校と香美市が協働して行う人材育成事業である「学校地域協働本部事業」が始まり、地域や地元大学の全面的な協力も得られた。地域が一体となり地域の発展に思いを馳せる生徒の育成に乗り出したのだ。総合学習の外部連携は、地域コーディネーター浅野聡子さんが担っている。浅野さんは東京の大手広告代理店で営業や企画の仕事をしていたが、一年半前に夫の実家である高知県に移った。・・・(中略)・・・一方、校内では「周知会」と呼ばれる授業担当者(学年主任、担任、副担任、企画部)の打ち合わせ会が、毎週月曜日の2校時に行われる。ここでは指導案が提示され、教員の関わりや、ワークシートの利用方法などが共通理解される。当初は研修企画部の提案に対しては「こんな時には・・・・どうしますか?」などの質問が多く、相当時間がかかった。チャレンジングな試みに、学年の授業担当教員からは不安や戸惑いの声もあがった。そこで、5月からは周知会の前に、研修企画部、地域コーディネーター、学年主任で下打ち合わせを行う会を設け、不安材料の解消に努めた、周知会では、意見や質問を出し尽くしてもらい、全員で考える。教員も実践的な研修をしてみるなど工夫した。   

pp.126-127.

六点目
様々な専門教科を持つ教師が協働で授業を行うことで、結果として、各教員の視点が広がったり、教科の授業のスキルアップにつながる例が示されています。

課題研究を実施するために、実施初年度には、ワーキンググループでプログラムを検討した。教員間のベクトル合わせを密にするために、実際の課題研究を想定して、事前に教員が課題研究を実践した。異なった教科の教員がグループをつくり、探究の過程をたどり、スライドを作りプロジェクターを使って発表し、質疑応答をした。課題研究に必要なことは何か、どのような点に難しさがあるかを体験を通して探例、授業に生かした。課題研究に向けての基礎づくりを目的にした、普通科1年生の学校設定科目SG思考基礎(3単位)では、理科、地歴・公民科、情報科のTTで授業をする。エネルギーや環境問題、グローバル課題に分離融合の視点で演習形式の授業を展開する。SGH推進室長の石尾推進室長の石尾和彦教諭は、「教科内では何となく共通理解ができていたことが、TTで授業をするときにはどんな生徒を育てたいか、それに向けて自分の教科ではどうアプローチするのかなどを言語化する必要があった」と話す。どうすれば文理両方のアプローチができるかを検討するため、お互いに教科の理解を深め、融合させていったという。理数科でも人間科学(学校設定科目)では理科。家庭科、保健体育科、地歴・公民科でのTTの授業がある。SSH推進室の前田学教諭は、「教科によって見方や軸足が違い、多様性の豊かさを感じる。文理融合が生徒にも教員にも起こり、新しい価値を生み出せると感じている」という。教科間での連携授業は、自分の教科を見直すきっかととなり、教科の授業にも変化が生まれる。たとえば、理科の授業ではピアインストラクションや2~3人で議論することが日常的になっている。「考えてみて?」という教師の問いかけに、生徒は理由をつけて意見が言えるようになってきたという。

pp. 159-160.

「先進校を見ていると、授業改善も総合から始まっている、総合学習を軸にカリキュラム・マネジメント(カリマネ)が回っている、教科横断の軸になっているということは見えてきました。また、個々の先生方が総合学習を経験することにより、教科の授業も少しずつ変わってくるということもよく聞きました。」

pp.174-175. 廣瀬氏のコメント。

一方で、専門教科の意識の高い教師に対しては、

「小学校は全教科を見なければならないですから、総合学習まで含めてデザインしやすいのかもしれません。しかし、高校はそう簡単にはいかないでしょう。ですから、まずは自分の教科と総合学習の間を少し考えて見るぐらいでも良いと思います。」「自分の教科はこう、学校目標はこう、。そこで総合学習はこう・・・という具合に考えてみるだけでも随分変わると思います。」(いずれも田村氏。pp.180-181.)と実現しやすそうな方法を提案している。

七点目
探究をキーワードとすることで、総合学習が学校のカリキュラムの起点となること、さらに言えば、探究活動を通して、総合と教科がより密接につながりあっていくことが感じられます。

探究することを本質とする「総合的な探究の時間」では、学校教育目標との直接的な関係を持つ唯一の時間として教育課程上に位置付けられ、各分野等を横断して資質能力を統合する教育課程上の役割を担い、学校独自のカリキュラムをデザインするという「教育課程の起点」と考えることが重要になる。

p. 16.

高校の教科は広く、人文科学も自然科学もあり、それぞれある程度固有のものが確立されていると思います。ですから、そこで一定程度、共通性を見出して整理すれば、ずいぶん違うでしょうね。・・・(中略)・・・各教科にも探究のスキームは内包されていますが、総合学習は学ぶ対象よりもプロセスの方がより強調され、どう探究していくかというところに目が向けられるので、学び手もそれを意識しやすいし、他でも使えるということになるのでしょう。・・・(中略)・・・新学習指導要領では、各教科でも探究プロセスを意識することが強調されています。プロセスの充実こそが主体的に資質・能力を育てることにつながる、という考え方が背景にあります。それを先取りしたのが総合学習と言えるでしょう。

pp.184-186. いずれも田村氏のコメント。

実践記録の持つ魅力、そして総合的な探究の時間の現代での位置づけや求められる期待感を感じられる本でした。

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