感想メモ

梅津正美編著(2019)『協働・対話による社会科授業の創造-授業研究の意味と方法を問い直す―』東信堂.

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目次は以下の通りです。

はしがき
序章 社会科授業研究の意味と方法を問い直す 
第1部 パースペクティブ
第1章 社会科授業研究方法論の展開と課題 
第2章 共同体・対話・教師という視点によって授業の何が見えるか? 
第2部 ケーススタディ1
第3章 協働・対話による中学校社会科授業研究のプロセスを描く 
第4章 協働・対話による小学校社会科授業研究のプロセスを描く 
第3部 ケーススタディ2
第5章 教師の経験から生まれる社会科教育観と授業研究スタイル 
第6章 多様な教育観を持つ教師によって創り出される授業 
第4部 アプローチ
第7章 子どもの発達データを用いて論理実証的アプローチを再構築する試み 
第8章 社会文化的アプローチで日本の社会科研究を変革する試み 
第9章 学び合い発展する実践研究共同体をつくる 
第5部 パースペクティブ、再び
終 章 協働・対話による社会科授業の創造と授業力の形成 
あとがき

質的研究が増え、実践の文脈を重視した研究が必要だといわれるようになりました。
また、開発研究にしても、執筆者や作成者一人で作っているというよりも、様々な他者や関係者とのかかわりの中で、理論や授業が生まれていることにも注目が集まるようになりつつあります。

そのような研究動向の背景を受けつつ、「協働」「対話」をキーワードにしながら、社会科教育研究のあり方について論じたのが本著です。現代的な問いに真正面から答えようとしている気がします。

印象に残った箇所を三点ほどメモします。

一点目は、現職教員の研究授業に向けての準備過程であったり、自身の授業の変容を語る際に、様々な試行錯誤が語られている点です。

これは、第2部の事例で感じたことなのですが、複数の教員が協力して授業提案をする際にも、複数のメンバーの率直な語りが重なり合うことで、授業づくりに向けての重層的な物語が見えてくるのが印象的でした。

個人的に大切だと感じたのは、授業者や関係者が「わからない」と感じる時点と、それを克服しようとして人に話を聞いたり調べたりして試行錯誤するプロセス。この二点が語られることによって、いわゆる完成品としての「授業理論」の語りでは見えてこない様々な視点が見えてくる気がしました。

二点目は、理論と実践者(現職教員)の距離感について、新しい視点を提起してくれている点です。

これは、「第5章 教師の経験から生まれる社会科教育観と授業研究スタイル」で特に感じました。

村上のライフストーリーから見られるのは、「理論」の存在の重要性は、他者の存在があり、自己が他者に向かって語られ、相手から「なるほど」と納得され、共有されることことによって成立する。つまり、「理論」とは共同体の存在があってはじめて成り立つ産物であるし、それは「教育観」という自己言及的な言葉では不十分である。このことは、これまでの社会科教育についての「理論」をめぐるいくつかの議論に再考をもたらす。

p.165.

社会科教育研究が大切にしてきた「理論」の視点の必要性を提起しつつも、村上氏の理論との向き合い方を「他者」や「納得」などを経由して咀嚼されるものだと捉えている点がとても印象的でした。

村上氏がとても面白い授業をされる一方で、「○○理論」みたいな理論を前面に出して語る場面がほぼないという点も、個人的にはとても腑に落ちる感覚がしました。

三点目は、実践研究のあり方についてです。

なぜ実践研究が必要なのかという点について、「第9章 学び合い発展する実践研究共同体をつくる」から学ぶものは多かったです。

「これは研究だ」「これは研究ではない」みたいな、狭い意味での二分法が時々研究者界隈でも耳にすることがありますが、実践研究も時としてグレーゾーンとみなされることも。でも、以下のようにとらえた時に、実践研究の意義をかなり前向きに、捉えなおせるように思いました。

実践研究の記述を考えるためには、上述したような実践研究を公表する意義をいかに担保できるかということを念頭に置くことが必要である。実践研究は、基本的には、一つの実践を取り上げ、社会的文脈も含め、その実践の意義と課題、そして改善のプロセスを丁寧に記述していく、いうまでもなく、実証主義的な量的研究で求められる意味での一般化が可能な知見はほぼ不可能であり、そこを目指すべきでもない。実践研究は、読者が自身の実践と比較しながら読むことができ、自身の実践研究を行う上での知のリソースとなる記述である必要がある。実践研究のめざす知のあり方を近接する研究から考えてみたい。事例研究では、知見の「一般化」は受け手に委ねられる。事例研究を受け取る側が自身の心の中で事例の比較照合を行っていく。「面白い事例」は、受け手の心を刺激し、新しい気づきをもたらすのである。一人称研究を奨励する諏訪正樹は、研究の役割を知識の伝承とする。普遍性のある知見でなければ伝承できないとうのは思い込みにすぎず、一人称視点や個別の具体的な状況を伝えることで受け手はその研究成果を「味わう」ことができると諏訪は主張する。つまり、実践研究では、一つの実践を実践者の視点から、社会的文脈を含め、丁寧に記述することで、受け手に新しい気づきをもたらすような知見とすることが目指されるのである。

p.263.

新しい気づきが多かったです。

勉強になりました!

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