2018年度 社会科・公民科教育法1

社会科教育や公民科教育に対する理論的・歴史的知識を獲得しつつ、授業スキルの向上を目指します。本授業では、学習指導案の作成や短い模擬授業もする一方で、「何のために社会科教育を教えるのか?」という問いに対する答えを履修者に絶えず聞くように心がけたいと思っています。

【2018年度内で既に終了した授業内容を、随時簡単に紹介します。少しずつ更新します。】

第1回 社会科基礎論(1):主体的に学ぶための本授業の最終ゴールの共有
14回の授業のシラバスの構成を示しながら、この授業の目的や最終ゴール、授業のコンセプト(私の授業で大切にしたい数個のバリュー)を共有しました。
そして、本授業でルーティンとして行う三つの試み(➀「振り返り・ジャーナル」(毎週)➁連載企画「新聞記事の紹介と私のツッコミ」(隔週)、➂ペアで行う社会科小テスト(隔週))の趣旨について説明しました。
また、スティーブン・ビゴー(1989)『7つの習慣』、ロジャー・コナーズ(2017)『主体的に動く:アカウンタビリティ・マネジメント』、澤井(2017)『授業の見方:「主体的・対話で深い学び」の授業改善』、無藤・馬居・角替(2017)『無藤隆が徹底解説:学習指導要領改訂のキーワード』などを参照しながら、「主体的な学び」を実現するためには、クラス全体での学びの目的意識や最終ゴールを意識することが大切であるという、新学習指導要領の「主体的な学び」の考え方についても話をしました。


第2回 社会科基礎論(2):対話と議論の違い、自分を語ることの意味について
「対話的」とは何かということについて、中原淳・長岡健(2009)『ダイアローグ 対話する組織』デイビット・ボーム(2007)『ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ 』などをベースにしながら、対話と議論の違いなどに注目しながら考えました。その際に、傾聴に使われるオープン・クエスションを用いたペアワークを行いました(オープン・クエスションの姿勢は、グループワーク全体の基盤だと考えます。)。
その上で、自分の主観的な語り(ナラティブ)の意義について触れました。その後に、履修者に、クラス内の誰かとペアを組んで、相手の社会科授業の思い出(の主観的な語り)を聴き取るように促しました。その上で、次回の授業で、聴き取りの結果を基にした「私の社会科授業の思い出」と題した記事(コラム調)を提出することを求めました。


第3回 社会科基礎論(3):深い学びとリフレクション、思考の深化をどう見取るか
授業の最初に、前回の課題である記事原稿(コラム調)を全員で共有した上で、「クラス内編集会議」を開催し、誰の記事が最もリアリティがあるのかを議論し、数枚の評価の高い記事を選定する作業を行いました。
その上で、ウィギンズとマクタイの「双子の過ち」(活動主義と網羅主義の授業の両極端な過ちの例)を導入としながら、松下佳代編(2015)『ディープ・アクティブラーニング』などをベースとして、「深い学び」の考え方について紹介しました。その上で、「知のネットワーク化」という考え方を示し、その延長線上として、「良い学びとは?」をコンセプトマップの中心に位置付けて全体像を描いてもらい、グループで共有する活動を行いました。
最後に、振り返りジャーナルを使って、「『良い学びが実現している時』とは、子どもがどんな姿の時ですか?」と題する振り返りをしてもらいました。(ちなみに、振り返りジャーナルの取り組みは、岩瀬・ちょん(2017)『「振り返りジャーナル」で子どもとつながるクラス運営』をもとにして、毎授業の最後5~10分を使って実践しています。)


第4回 社会科教育実践史(1):歴史(実践史)を学ぶ意味とは何か/新学習指導要領の論争点
これから社会科教育実践史を四回にわたって学ぶにあたり、「歴史をなぜ学ぶのか?」について、議論を行いました。スティーブン・ソーントンの「社会的教育」「社会科学教育」の区別を手掛かりにしつつ、バートン&レビスティックの歴史教育観とワインバーグの歴史教育観を対比して紹介し、その上で、学生に自身が思う「歴史を学ぶ意味」を議論し、それぞれの立場を黒板に図化して可視化しました。
授業の後半では、新学習指導要領の大まかな特徴に触れました。大きな論争点として、「社会的な見方・考え方」というものが、地歴公の各分野の学習の単なる寄せ集めなのではないかという点を示しました。
最後に、第8回に実施するパフォーマンス課題について説明しました。パフォーマンス課題は、「某テレビ番組の特集で、『新学習指導要領は歴史的に新しい取り組みと言えるのか?――社会科教育実践史100年を振り返って――』と題する5分間の収録の解説者をすることになりました。」という設定で履修者が発表するというものです。


第5回 社会科教育実践史(2):日米の戦前の社会科教育/戦後初期社会科の論争点1
今からおよそ100年前のアメリカで社会科という教科が誕生した話をしました。当時の都市化、工業化、移民の流入などの社会背景の中で、社会科が誕生した話をした後で、米国の初期社会科の実践である「保健」「産業史」を分析しました。ラッグの社会問題学習やバージニアプランなど、米国では総合(融合)社会科の理念が見られた点を強調した後に、戦前日本の社会科教育史へ。
戦前の地理教育と歴史教育が「日本の歴史や国土についての細かな知識を教え込もうとする段階」「地理や歴史を通して、国民として身につけておくべき、道徳性や国民精神を涵養しようとする段階」の二段階に大まかに分けられることを説明し、当時の歴史教科書の特徴などを紹介しました。その後、主に大正時代の生徒主体の地理・歴史の実践である「応仁の乱」「中国地方」を分析したり、生活綴方や公民科などやや社会改造主義的な実践の話をしました。
最後に、戦後の初期社会科の成立背景を簡単に紹介し、初期の社会科が総合社会科を理念として誕生した話を、当時の学習指導要領の文章を紹介しながら、説明しました。


第6回 社会科教育実践史(3):戦後初期社会科の論争点2・戦後社会科実践史の論争点1
戦後の初期社会科の代表例として、西陣織の実践を分析しました。その上で、当時においては、生徒にとっての実生活の身近な問題であったり、社会全体の大きな問題を児童・生徒自身が分析していくような授業が多く見られたことを指摘しました。その後に、長岡文雄の授業記録についても検討しました。
1950年代の逆コースの流れや、中学校社会科が総合社会科から分野別編成、π型編成への変化していく流れを説明しました。その上で、初期社会科への批判として、遠山啓の生活単元学習への批判や、歴史教育者協議会からの系統主義学習の推進をする主張がなされたことを紹介しました。科学的な概念探究をしている実践として、森分孝治の「公害」の授業案を取り上げて検討しました。この授業では経済学の理論をベースにした授業設計がなされています。更に、科学的な発見のプロセスや学問の論理を重視する発想は、実は新学習指導要領でも見られる点であることを奈須正裕(2017)『「資質・能力」と学びのメカニズム』を引き合いに出して説明しました。
最後に、科学的な論理を重視した授業が、その後に「特定の学説を押し付けているのではないか?」という批判を受けること、その後に論争問題学習としての社会科授業が提案されるようになることなどを紹介しました。


第7回 社会科教育実践史(4-1):戦後社会科実践史の論争点2
授業デザイン論(1-1):学習指導案のサンプル配布・説明

最初に1970~90年代の学習指導要領の動向を説明し、生徒主体の学習が徐々に推進されていったことを確認しました。そのような文脈の中で、安井俊夫の「スパルタクスの反乱」の授業実践を分析・検討しました。高校社会科廃止についても触れました。
その上で、「真正の学力論の登場:『使える』知識をどう育成するのか?」と題して、近年に見られるようになった真正の学力観やパフォーマンス課題などの授業作りについて説明しました。石井英真(2015)『今求められる学力と学びとは―コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影』、奈須正裕(2017)『教科の本質を見据えたコンピテンシー・ベイスの授業づくりガイドブック』を参照したり、中学校社会(公民的分野)の教科書などを見て、パフォーマンス課題的なものが増えていることを確認した後、三藤・西岡(2010)『パフォーマンス評価にどう取り組むか―中学校社会科のカリキュラムと授業づくり』に出てくるパフォーマンス課題と単元作りの例を説明しました。
その上で、新学習指導要領で言われる「見方考え方」に関わる授業例を示し、私自身が考える、新しい学習指導要領への想いを述べました。
授業の後半では、学習指導案のフォーマットやサンプルを提示して説明を行いました。


第8回 社会科教育実践史(4-2):社会科教育実践史を踏まえたパフォーマンス課題の発表会
授業デザイン論(1-2):教科書記述から問い(疑問)を生み出す練習
授業の前半では、第4回の授業で決定したパフォーマンス課題(「テレビ番組特集『新学習指導要領は歴史的に新しい取り組みと言えるのか?――社会科教育実践史100年を振り返って――』)を実施しました。解説担当者には解説用のボードとカンペを用意してもらって、テレビ解説風に発表してもらいました。私も特番用のBGMと撮影用のカチンコを用意して、謎のやる気で臨みました。
授業の後半では、社会科教科書の記述内容について検討しました。社会科の教科書記述は、一見すると客観的で論理的に書かれていると思いがちですが、じっくり読むと、論理的に不明確だったり、文意を理解するには行間がある(こちらが文意を汲み取らないと理解が困難である)箇所が少なくないこと、特に社会的な出来事や現状の原因などについては説明していない箇所が多いこと、言い換えればツッコミができる箇所が多いことなどを説明しました。そして、ツッコミの答えは、教科書にも書かれておらず、市販の資料集にも載っていないことが多いという話をしました。(例えば、「なぜ日本は議員内閣制をとっているのか?」という問いに答える説明は、教科書や資料集ではなかなか見つかりません。)。また、こういった背景を教師が理解していないと、結局は授業が暗記目的のものになってしまうこと、だからこそ教師は、教科書を批判的(否定的という意味ではなく)に読んで背景理解をする必要があることを説明をしました。
これらのことを幾つかの教科書記述で事例的に示した後、教科書記述にツッコミを入れる活動のための時間をとりました。ツッコミを入れるというのは、連載企画「新聞記事の紹介と私のツッコミ」でもやっている作業なのですが、文章に対して「それホント?」「なぜそうなる?」などのツッコミを入れながら読んでもらう活動です。(新聞のツッコミ企画自体は、下村健一(2015)『10代からの情報キャッチボール入門――使えるメディア・リテラシー–』をもとにして企画しました。)
授業の最後に、振り返りジャーナルを使って、今まで「これまで、教科書の文章とどのように向き合ってきましたか?皆さんの過去の経験を振り返ってみてください。」というテーマで振り返りの時間をとりました。


第9回 授業デザイン論(2):図書館に出かけて教材研究する
前回の教科書記述にツッコミを入れる授業の続きです。前回配ったワークシートに従い、興味のある教科書ページ(見開き1ページ)に3個以上は教科書記述にツッコミを入れてきてもらっている状況を前提としています。
そこで、教科書に自分たちで入れたツッコミの答えを探すために、各自で図書館に調査に行く時間をとりました。読むと良さそうな本(新書や概説書、資料が豊富な本など)を大まかに指定しつつ、後は現地で自由行動。授業の最後5分前に教室に戻り、振り返りジャーナルによって、振り返りを行いました。
ちなみに、自由行動を開始する前に、次回の授業までの「社会科教材研究の報告資料」を提出するように指示をしています。


第10回 授業デザイン論(3):配布・提示資料の作成・板書計画の検討
授業時における発問の機能や種類について、最初に説明しました。様々な分類や意図が考えられますが、本授業では、「図表資料を読みとったり、生徒と会話をすることで、学習対象への関心を高める」「生徒の疑問を引き出したり、予想と根拠の関係を意識させ、考えを生み出させる」「『導入の発問群』⇒『主発問』の連続性を意識する」の三点に言及しました。また、発問は知識だけを問うようなものであったり、誘導尋問のような発問ばかりではなく、一回目に生徒が答えやすい問いを出し、その上で生徒の答えに対する根拠・理由を続けて尋ねられる発問(二段階発問)が良いという話をしました。その上で、教師と生徒の発問と対話をベースにした授業の導入を検討しました。地理・歴史・公民のそれぞれの導入を示し、➀どの授業の導入の流れが一番しっくりくるか➁それはなぜか、の二点を各履修者に書き出してもらい、異なる意見を持っているメンバー同士でグループになって、意見を共有しました。その後に、発問をベースにした授業の導入の例をビデオで視聴しました。
授業の後半は、板書について検討しました。青柳 慎一(2015)『中学校社会科 授業を変える板書の工夫45』をベースにしながら、板書のポイントして「生徒の理解を図る『事象の構造が見える板書』を工夫する」「地図や図などを使った『ビジュアルな板書』を工夫する」「授業の流れが分かる『計画的な板書』を工夫する」「生徒の主体的な学習を支える『生徒とつくる板書』を工夫する」の四点を説明し、典型的な板書例を示しました。その上で、6つの板書の事例(地理二つ、歴史二つ、公民二つ)を素材にして、履修者にどれか一つの担当になってもらいました。自分の担当の板書例について詳しくなった後、地歴公の分野の異なる人と3人グループを組んで、お互いの担当の板書例について説明をし合いました。
最後に、ワークシートの例を配布資料で紹介し、思考ツールなどについても言及しました。


第11回 授業デザイン論(4):授業アイデア構想の発表
これまでの授業内容を踏まえて、各履修者の授業アイデアの構想をグループに分かれて発表しました。発表をする際には、教科書見開き1ページを選んでもらい、(1)主発問、(2)導入で提示する資料、(3)本質的理解(この範囲で一番理解して欲しい内容の要約)を紹介し、その上で、授業の流れを説明してもらいました。グループごとでお互いの授業アイデア構想に関して、相互評価をしたり、意見交換を行いました。


第12回 学習指導案の検討・作成(1):学習指導案の様式・意図に関する最終説明
前回の授業アイデア発表を受けて、学習指導案の作成に関するおさらいをしました。
最初に、単元計画や評価規準、目標設定の仕方など、間違えやすい点を斉藤が説明しました。その上で、以前に配ってある学習指導案の作成に関する解説書(斉藤自作)の内容を読んできて、疑問にある点などをグループで共有し、クラス全体でも意見を共有しました。


第13回 学習指導案の検討・作成(2):相互チェックによる学習指導案改善
学習指導案を一通り埋めてきてもらい、履修者同士で、指導案の内容の相互チェックを行いました。相互チェックに関しては、学習指導案の形式面のミスを減らすために、事前にチェックリストを作成しておき、お互いの指導案をチェックリストに従って採点・添削していく方法をとりました。
また、次回の模擬授業の趣旨・設定などについて、確認を行いました。


第14回 ミニ模擬授業とリフレクション
学習指導案を提出してもらい、5分間の模擬授業を行いました。模擬授業は5人一組のグループで行って貰いました。
模擬授業後には、これまで書き溜めて13回の振り返りジャーナルを読み返して、前期の授業全体を行いました。
定期試験