読書メモ

牧野百恵(2023)『ジェンダー格差:実証経済学は何を語るか』中公新書.

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ジェンダーに関わる政策決定をするためのエビデンスとは何か?を考えるのによい本だと思った。著者は、実証経済学の研究者で、因果推論、ランダム化比較試験(RCT)の考え、手法をベースに論証を進めていえう。例えば、「女性の政治家を増やすと福祉政策が充実する」は実証的に論証し得るか、など。また、倫理的問題を起こさない「自然実験」を説明する際に「天から降って湧いたような出来事」という話が何回も出てくる。
手法に基づき、時として「反直感的」なデータが出てくることもあるのが、このアプローチの強みと魅力なのだろう。例えば、「家事労働の減少が、女性の労働進出の結果に繋がっていない」(p.35.)とか、「女性の労働参加が経済成長につながるとは言えない」(p.41.)など。また、「欧米諸国の中での女性の社会進出を比較した場合、G7参加国が進んでいるわけではなく、世界的に見ると、欧米諸国も女性参加率がそれほど高くない点(p.65.)。」や、ジェンダー格差が比較的少ない北欧諸国も歴史的に見るとジェンダー格差が小さくなる必然性はかったのであり、政策的な改革によってステレオタイプも短期間で変化し得る点(p.80)なども挙げられている。これらのデータは、私たちの抱く大まかなイメージを揺さぶるものかもしれない。また、「ジェンダー規範の弱い国々では、社会進出している女性ほど結婚し子どもを産む」(p.143.)という事実に注目し、本書では、「女性の社会進出が、未婚化、晩婚化、少子化の元凶のようなイメージ」を持つ人がいるのが、それは日本もしくはアジア特有の現象であると指摘している。
本書の後半では、ジェンダーによる所得格差の実態と原因を考察している。その際に、「男性/女性の就きやすい職業」というステレオタイプと、その職業の収入との関連性が指摘されている。女性か付きやすい職業、というのが相対的に収入が低くなりやすい、という点が示されている。個人的には、ケア関連業や教育職の給与が上がらないことの遠因として、この問題を捉えられるようにも思えた。同時に、キャリアの中断が必要となったり、柔軟な働き方を求めるのが女性に偏っており、それが男女の役割分業的な発想に基づいているのだとすれば、それらを強いている社会規範自体を問うていく必要があるという点も、(自分ができているかかなり心許ないが)その通りだと感じた。
あと、ランダム化比較試験(RCT)や「天から降って湧いたような出来事」の話に関して、世界各地の固有の文脈をどの程度尊重したり遠因と考え、その上で比較するのかという点について、より詳しく学んでみたいと興味がわいた。

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