読書メモ

早瀬博典(2025)『アメリカ社会科のインクルージョン理念と方略』東信堂.

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アメリカ社会科が、主に障がいのある子どもや人々をどのように教育を通して包摂しようとしてきたか、その思想と方略を明らかにした本だった。
本書では、インクルージョンの理念は、「能力主義の社会科」から、「他者との関係と潜在能力を重視する、社会正義型の社会科」に転換を促すものであると述べる(p.79.)。その上で、本書では、インクルージョンの方略を用いた社会科の授業や単元を分析した際に、それらの授業が「カリキュラムの変更」と「自己決定とアドボカシー志向のアプローチ」の二つを意識し、両要素を関連付けることで、子どものニーズ尊重と社会的正義を目指す実践になっていたと論じている(p.214.)。カリキュラムの変更では、ユニバーサルデザイン、アコモデーション、モディフィケーション、オルタナティブスタンダードの四つのレベル(指導方法、学習環境、評価方法、資料提供の基準、授業プロセス、目標設定など)の異なる変更方法をうまく組み合わせて、障がいの程度や生徒のニーズに対応しようとしている(p.82.)。一方で、「自己決定とアドボカシー志向のアプローチ」では、ニーズ尊重を通して生徒の潜在能力を引き出し、社会変革に向けて生徒自身が働きかける学習構造が意識されている(p.214.)。文字情報や内容量が多くなりがちな社会科に様々な工夫がなされる「カリキュラムの変更」も参考になるし、その変更と併せて「自己決定とアドボカシー志向のアプローチ」が連動しているところが社会科のインクルージョンとしての肝があるのだろうと感じた。逆に、日本のユニバーサルデザイン的な授業作りが社会正義志向が弱い点も随所で感じた。語やキー概念の調整の話などは勿論なのだが、「問いを設定する」点が「カリキュラムの変更」の鍵になっているようにも読め、あらゆる授業作りに通底する論点を含んでいるように思えた。
また、個人的には、障がいのある子どもたちと通常の学校・学級との距離感であったり、共学・別学の思想や、オルタナティブスクールの系譜などがどう絡み合うのか、それがカリキュラム論や授業論とどのようにかかわってくるのかなど、理論面以外の実際の経緯や実態なども気になった。

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