読書メモ

山本圭(2024)『嫉妬論:民主社会に渦巻く情念を解剖する』光文社新書.

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民主主義社会が、嫉妬感情と分かちがたく繋がっていることを論じた本。
個人的に印象に残ったのは、上方嫉妬と下方嫉妬の関係の複雑さについてだった。例えば、ヌスバウムが、嫉妬感情が民主社会の脅威になると議論している中で、「過度な経済格差の是正」と「支配者集団の不幸を望むこと」を分けて考えるべきであり、後者になると、ろくなことにならない、という指摘についてである(pp.119-120.)。これは支配者側への嫉妬である。ただ同時に、本書が同じく指摘するように、下方嫉妬もしくは「劣位者への嫉妬」の議論のように、自分より不利な境遇にある人に「嫉妬感情」が向けられる場合も多くある。この嫉妬のベクトルの複雑さも関わり、現在では、左派ポピュリズムだけでなく右派ポピュリズムも、戦略的に「嫉妬のエネルギー」を大いに利用しているのだろうなあと感じた。正義や平等に対する人々の要求が、「嫉妬を偽装している」のではないかという保守派の指摘を含め、本書を読むと、民主主義の議論が、「実はあいつらの方が得をしようとしている」といった嫉妬合戦にも見えなくもない。
ただ、同時に本書は、「嫉妬はデモクラシーの条件かつ帰結」(p.220.)でもあり、デモクラシーの不可避の情念であるともいう。つまり、民主主義社会に生きる私たちは嫉妬のある社会から逃げられない。本書の最後の方では、「嫉妬に耐性のある社会」(p.240.)の話も出てくるが、そのあり方をどう考えていくかは読者に委ねられているようにも思えた。個人的には、嫉妬に耐性のある社会をつくるために「なるべく評価軸を多様化し、社会的な序列をわかりにくくすること」(p.240.)は確かに有効である一方で、争点が見えなくなることの難しさをどう捉えるか悩ましく思った。先日読んだ『High Conflict:よい対立 悪い対立』の内容が頭によぎる。二項対立や分かりやすい対立構図を避けて複雑さを理解することの長短所について考えさせられた。
教育に引き付けていえば、公的な論点を議論する際の市民や子どもたちの感情の起伏やエネルギーをどう捉えていくかという点とも繋がるように思う。同時に、「感情史」への興味関心をも誘ってくれる本でした。

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