読書メモ

田上良江(2021)『知られざる教育から知られざる教育へ:上田薫の経験主義と問題解決学習』 溪水社.

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『知られざる教育から知られざる教育へ』を読了。上田薫の思想を様々な視点から考察する論考が掲載されている。個人的に勉強になったし、氏の思想に接近するための問題意識を持つのに良い本だと感じた。本書では「問題解決学習を集団でおこなうことは不可能である。」(p.94.)と述べている。その意味を理解するキーワードとして、「自己否定」「自己超越」「ずれ(矛盾)」「弁証法」などが該当しそうだと感じた。

人が知識を獲得するには、自己の歴史を超越することによって自己が自己を否定し、新たなる対象と認識作用とが自己の中で形成されることが必要となる。(p.52.)。私なりには、過去の自分の認識の課題や限界を自覚し、そのずれ(矛盾)に気づき、それを超えていく認識過程が重要となると理解した。だからこそ、過去の自己とのずれを直視し、それを否定し超越する必要がある、ということなのだろうかと。

同時にその過程は、個々人レベルで自己統一されるしかなく、集団で行うのは難しい。何か正しい知識を獲得するというよりも、知識の真理性のようなものも動的に変化するため、「動的に働く知識とはこの立場から考えると自己の中でつねに弁証法的に無限後退的に、自己否定的に自己の歴史を超越することである。」(p.53.)となる、ということだろうか。

印象に残ったのは、カルテの役割についてだった。本書においては、カルテは、子どもに対する見え方が「えっ」と変化した瞬間にメモを取るものだとされ、それが、自己否定的に自己を超越することを教師が自覚するための手段(p.89.)の一つとされる。

「R.R.方式」についても、本書では、上田論の思考体制の評価方法としての限界を提起している(p.122.)。その他、1958年学習指導要領での道徳の社会科からの切り離しを、上田論から見る社会科にとって決定的な問題として様々に論じている。本の書き方はやや独特な感じもしたが、様々なアイデアや問題意識を触発される本だった。

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