『ハンナ・アーレント:「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』を読了。アーレントの生涯が幼少期から順に描かれており、親しい人間関係を含め、イメージしやすい内容でした。
それゆえに、幼少期からヨーロッパにある反ユダヤ主義の風潮や、アーレントが「ユダヤ人として」の自分をどのように捉え、行動してきたのかを追えるし、最終的に「アイヒマン論争」で多くのユダヤ人の友人を失う過程なども、様々に考えさせられた。知人関係も物語的に分かりやすい。ブリュッヒャーはもちろん、ヨナス、ベンヤミン、ヤスパースの存在感は大きい(特にヤスパースの安心感が半端ではない)。
印象に残ったのは、1940年半ばに連載した『アウフバウ』の記事の内容についてだ。ヒトラーが倒れてもユダヤ人問題が自動的に解決するわけではないこと、隣人であるアラブ諸民族との連帯の可能性を論じている点など(p.87.)。同時期にも、イスラエル建国への懸念を示している点も印象に残る。
アーレントの思想を理解できたわけでは全くないが、リトルロックの話にしても、アイヒマン論争の話にしても、アイデンティポリティクスから一定の距離をとって論じる姿勢が一貫しているように思えた。同胞愛のようなものが、政治や公的領域に深くかかわることへの抵抗とも見えた。同時に、だからこそ、周りから批判もされ、同時に、私が読んでも、全体主義の話が、非常に現代的なもの、日本にもあるもののように感じられるのだろうかとも。戦後にヨーロッパ再訪をした際に、「民主主義をイデオロギー的な〈大義〉に仕立て上げる傾向」への批判をしている点(p.119.)などもその一例かなと。
また今回の読書では、「あいだ」「他者」「複数の視点」が印象に残った。人びとを結びつけては離す「あいだ」の空間を作ること。公的領域において他人によって見られ、複数の見方があることを知ることによって「リアリティ」が生まれる。全体主義の起源の話も、社会の勃興の話も、現代的な既視感をやはり感じた。