読書メモ

永吉希久子(2020)『移民と日本社会:データで読み解く実態と将来像』中公新書.

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『移民と日本社会』を読了。主に量的なデータを用いて、日本社会の将来像を検討している。移民は労働条件を悪化させるのか?社会保障の支出を増やすのか?移民の増加が犯罪率を高めるか?などの問いに対しても、実証研究を多く用いて論じている。問いはドキッとするが、読むとある程度安心して読める。

労働条件の議論については、移民労働者受け入れの国内労働者の労働環境に与える影響自体は限定的だとされる。ただ、影響を強く受けるのは、現在すでに労働市場で不利な立場にいる人々だとも述べている(p.95.)。

社会保障の議論については、失業可能性が高い移民が社会保障の充実した国や地域にひきつけられる傾向は高くなく(p.121.)、現行の制度で、生活保護制度が移民を引き付ける磁石効果を起こしている可能性は低い(p.123)とされる。むしろ、移民が労働市場で弱い立場に置かれ続け、失業リスクに晒され続けることが、将来的な社会保障の負担を高める可能性がある(p.132.)と述べていた。

犯罪率の議論では、ほとんどの研究で、移民の増加は犯罪に影響を与えないか、むしろ減少させる結果が確認されているという。むしろ、地域の繋がりを活性化させる形で受け入れが行われているか、弱める形で行われているかによって、影響が大きくかわる(p.171.)とされていた。

印象に残ったのは、移民受け入れの影響を「どの程度のタイムスパンで捉えるか」の視点で論じていた点だ。移民への権利付与やサービス提供は、短期的に観れば受け入れ社会の負担となりうるが、長期的に観れば、移民の社会経済的統合を可能にすることで補われる可能性がある。ゆえにスパンが重要になる。

その他、「移民に政治的権利を与えれば社会を乗っ取られる」言説に対しては、本書では、実証的な研究では、移民の政治参加は受け入れ社会に包摂されているという意識によって促され、母国よりも受け入れ国社会に関心がある場合に行われていた(p.268.)。と述べていた。その他も論点が盛りだくさん。不法就労者の実態についても、移民への偏見を減らす方策についても、本書で論じられている。

一つ一つの移民側にも受け入れ側にも固有の物語があり、それを学ぶことも大切だと思う。と同時に、本書を読むと、ロングスパンでの影響を論じたり、量的データを用いた考察の意義を再確認することができた。

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