『有田和正に学ぶ発問・授業づくり』を読んだ。有田氏の教材・授業開発研究所の事務局を務めた著者が、有田氏の授業論の特徴を論じた本。代表的な実践や考え方の紹介がなされており、有田氏の授業論の輪郭を捉えるのによい本だと感じた。
「授業は、ねらいのよしあしではなく、ネタのよしあしできまる」という有名なワンフレーズのインパクトが大きいけれど、この言葉の意味するニュアンスの奥行きを考え続けたいと改めて感じる。片上宗二先生の著書のように、社会科教育研究の立場から、有田氏の授業論を高く評価する捉え方は説明し得ると個人的に強く思う。
「大名行列」の事例をはじめ、「ネタを狭く絞り込」んで、シンプルな教材提示で「ゆさぶり」をかける手法は刺激的だし、1980年代~90年代の先達達に共通するような、教材研究への熱量を私は感じてしまう。「はてな?」を児童が発見できるように促すための調べ方技能の獲得のさせ方や、教師の指導技術論まで、全体を見通せるのも本書の良さだと感じた。
今回印象に残ったのは、有田氏が「発問の定石化」を進めていく過程についてだった。著者曰く、有田氏の初期実践は、大単元教材の提案が多くみられるが、教職後半の書籍などでは、すぐに授業にかけられる実践が多くなり、次第に定石化という意識が強くなっているという。この前期と後期の変化の話を読み、これまで有田氏の本を読むたびに感じた、独特な感覚の意味が何か腑に落ちた気がした。
有限な時間の中で、「子どもに追究を促す前に、教師自身がまず追究の主体となるべき」という論理や、教師自身の成長過程をどう捉えるべきか。考えさせられる点は多い。