読書メモ

渡部竜也(2024)『大学の先生と学ぶ はじめての公共』KASOKAWA.

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『大学の先生と学ぶはじめての公共』を読んだ。教育の理論を語っている場面もあるが、基本的には「公共」の全範囲の教育内容を高校生に対して論じた本で、著者の教科内容理解が問われる本。だからこそ、教科教育研究者がこういった本を書く意義を強く実感させられた。

今の私は、全範囲をこのように詳細には書けない。もっと勉強しなければと率直に思った。著者の研究や活動を知っていれば伝わってくる様々な要素も散りばめられており、それも刺激的だった。現状の法や制度を使うことで生活改善を目指すことよりも、疑うことで社会変革に挑めるような市民の育成に重点を置いた(p.367.)点は、読んでいて強く伝わってきた。教科書内容を踏まえつつ批判的に書かれており、歴史的な視点と地理的な視点を何度も使い現状の正当性に揺さぶりをかける感じ。

内容に関しても、憲法、天皇制、安全保障など、様々に踏み込んで論じている。民法上の論点を「民法はどうやったら弱い立場の者たちを守っていけるのだろうか?」の問いから考察した上で、大切なことは、(法を使って問題解決能力を高めることよりも、)「民法がどのような法なのか、まず基本的な性格を理解すること」(p.277.)だとしている点が公民科の著者なりの立場を示しているようで印象に残った。

その他、生命倫理の問題は、複雑性があり、難しいから考えないでは済まされない喫緊課題も多いからこそ、義務論と功利主義といった議論を単純化をすることを避け、時間をかけて取り扱うべきという主張(p.257.)にもかなり共感した。先の民法の話を含め、内容の扱いの軽重の議論の先には、やはり教科の目的の話が来そうだ。

授業作りをするには、教科内容理解も「ネタ」的な知識も重要。それらがないと知的な問いが立てられず、考察を深められない。ただ同時に、単に内容に詳しければよいという話でもない。最終的に社会を捉える視点と問い、教科のねらいが重要になる。そのあたりの塩梅を感じるのによい本だと感じた。

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