『批判的思考と道徳性を育む教室』を読了。 本書で「最も重要な主張は、批判的思考は道徳的責務・関与によって支えられなければならないということ」(p.7.)と述べている。批判的思考を自己利益のために使う人がいる、という話は何度も指摘されており、批判的思考力の意味を考える機会になった。責任感の強い教師の中には、皮肉なものの見方が生徒たちの間に広まってしまう可能性を危惧している人も多いだろう、という指摘も印象的でした。
もう一つ特徴的なのは、人が「理性」によって道徳的行為をするのではなく、情動や感情などによって行為することを強調している点です。これに関して古典的な道徳論も批判されています。「私たちは精神だけでなく、感情や共感も教育する必要があることを認めることになるでしょう。」(p.15.)とも。この主張の背後にアメリカの分断的状況が強く意識されており、論争問題における感情の問題を避けられないと強調しているように思えました。「おそらく第一にすべきことは、人と人が結びつけるうえで感情は批判的理性よりも強い力を持つという事実に向き合うことです。」(p.254.)など。
さらに、この本の大きな主張の一つは、論争問題の学習を社会科や特定教科だけでなく、様々な教科で行うべきだという点にあります。複数教科を関連付けた授業アイデアなどもいくつか紹介されています。例えば、ナチス下での数学者への破壊的な影響の話。教科横断的な文脈での奴隷制の話(生物学、環境科学、経済学など)。英語の訛りと人種・階級の関係性(ストリートの話し方や黒人英語、標準英語)の話など。
最後に、「理性、感情、および人格を発達させること」と向き合う上で、多様な教材を扱うことが推奨されてます。例えば、フィクション、自伝、詩、アートなど。これら教材の視点も、複数教科の視点へと繋がっていました。一つのテーマを掘り下げていった時に、複数教科の内容へと広がるようなイメージを膨らませる上で、良い本のように感じました。