読書メモ

今井むつみ(2024)『学力喪失:認知科学による回復への道筋』岩波新書.

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『学力喪失』を読了。今井先生の本は実は初めて。学校で学力不振に陥っている子供たちがなぜ「わからなくなってしまう」かを、解決法の提案を含め、認知科学の視点から論じている。どちらかというと、中心の内容が算数ではあったが、学ぶ点も多くあった。

本書では、算数文章題が解けない問題が何十年も解決されてきていない背景として、「大人が分析した正しい解き方」を教え、覚えさせようとしてきたこと」が大きな原因だと指摘する。言い換えれば、生徒にとっての理解、(誤解を含めた)思考プロセスをもっと丁寧にみていくべき、ということだと私は理解した。それによって生徒が持つ誤ったスキーマを見抜き、子どもにアブダクション推論を促し、数やことばという「記号」を外界と紐づけて理解し使いこなすこと(≒記号接地)が目指されているように感じた。

AIとの比較の話も面白かった。人間は非常に限られた情報と情報処理能力しかもたないがゆえに、逆に、抽象的な記号世界に自力で踏み込み、記号と外界を紐づけたり、抽象的な本質的な概念理解ができる(pp.231-232.)。人間の「直観」の可能性も、AIが最も不得意なのが「知識を使うこと」であるという話と共に、理解を深めていきたい。終章では、生成AIをやみくもに使う弊害が多く書かれていた。

テストに関して、「客観的な点数化は最優先ではない」「子どもの解答を丁寧に読み取ることの方がずっと大事」など、その意味自体に揺さぶりをかけてもいた。そのほか、小学校5年生の半分以上は天動説信者だという話。ChatGPTは東大入試の英語は8割解けるのに、数学は1点しかとれない話に驚いた。

読んでいて消化しきれなかったことの一つは、数やことばの理解は、大人になれば、必ずしもレベルアップするのだろうかという点だった。むしろ、今の社会は「多くの大人が一定程度に文字が読めて、書類が読めることを(一方的な)前提としている」社会じゃないだろうかと。また考えてみたい。

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