https://amzn.asia/d/iJ88PSW
『デンマークの光と影』を読了。幸福度ランキングや、北欧型福祉モデルのイメージで日本では知られるデンマーク。その福祉社会に見られる新自由主義の台頭とそれによる社会変化、人々の日常や抵抗が描かれている。全体として、社会民主主義への揺れ動きや変容が印象に残った。
デンマークで進む減税政策、それに伴う公共サービスの悪化への不満、代替案としての民間の競争原理の導入の流れが徐々に進む様子が分かる。若者に早期就職を促す政策が提唱されている話を含め、労働に参加することへのプレッシャーが強まっている印象を受けた。大学改革の話は日本と既視感もあった。第二章では、「個人の意思尊重の代償」として、放任主義が挙げられていた。これについては今後も精査していきたい。
日本とデンマークの「自己責任」のニュアンスの違いが興味深い。著者的には、日本は「自業自得」のニュアンスだが、デンマークでは、「自分で出来ることは(他者/公に必要以上は依存せず)自らの力でかなえるべき」という自立を強調するニュアンスとされていた(p.108.)。こういった自立観の中で、アルコール、薬物濫用、精神疾患の話が対比を際立てていた。社会保障政策の政策変化のプロセスが具体的で、少しずつ受給者を締め出していく論理やそこでの論争が詳述されていた。
EUとデンマークの関係も論点の一つ。EU加盟の中で「デンマークらしさ」をどう作り上げるか。デンマークの法制とEU法制の衝突、イスラム教徒との共生のあり方なども争点になっている。外国人パートナーとの結婚などを理由に、デンマークからスウェーデンに移住する人の多さの話は印象に残る。
2008年の福祉関係者のストライキの話は、臨場感あふれる形で描かれていた。最後に述べられていた「政府や産業界が考えるデンマーク・モデル」と「労働組合・労働運動の伝統の築いてきたデンマーク・モデル」が混同され、政治的に利用されている、という主張が本書の意を要約しているように感じた。