『高校生からの経済入門』を読了。全ての章のタイトルが問いの形になっており(例:どうして大学に行くの?)、経済学者らの工夫を様々に感じる。
個人的に一番ヒットしたのは、第10章の「途上国の貧困と環境問題」だった。途上国でのごみ埋め立て場のワンシーンから、「途上国の子どもはなぜ学校に行かず働くの?」の問いをめぐって複数の仮説検証を重ね、環境問題が様々な要因の絡み合いで起こっていることを明らかにしている。単に学校を建てればよいという話でない援助の難しさが巧みに示されている。日本の農業政策や食料自給率の話でも、自給率を上げるためには、食生活、農業生産のあり方全体についての様々な知見が必要になってくると指摘されている。これらの複雑性を捉えようとする点に、経済学の射程の広さを感じもした。
「財政赤字と民主主義」の章では、耐用年数60年間の道路や橋に対する「利用時支払いの原則(毎年60分の1ずつ税金によって返済していく発想)」と、その意思決定に対して後の世代が参加していないという「代表なくして課税なし」問題との両立の難しさが指摘されていた。コストベネフィットで見たときに、少子化政策の結果で人口増加するのが30年くらいかかり、結果として(即効性がないので)優先順位が下がる、という話(p.35.)とも関連している気がするが、将来世代を巻き込む意思決定の難しさを再認識した。
そのほか、普通の銀行の「銀行券」が日本銀行の日本銀行券よりも早くから発行されていた点。訪日観光客の増加が日本の輸出の増加に繋がっている点。WTOが政府による輸出促進の補助金政策を禁止している点。「Made in China」の背後には、実は数多くの日本企業が関わっている可能性がある点。なども改めて認識した点も多く、勉強になった。