洋書メモ

Fallace, T.D.(2018). In the Shadow of Authoritarianism: American Education in the Twentieth Century. Teachers College Press.

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『In the Shadow of Authoritarianism』を読了。19世紀末から1980年代頃までのアメリカ教育史を、プロパガンダ、教化、権威主義などの視点から読み解いている本。全体として、ソ連やドイツなど、他国との関係性の中で、アメリカ教育の言説が変容する側面に気づかせてくれる。

権威主義と民主主義、民主主義教育とプロパガンダ、教化など対立図式が示されているが、この境界線の曖昧さが本書の論争点になっているように思えた。例えば、多様性を強みにするアメリカ的理念と、アメリカ的でないものは排除すべきという論理の矛盾であったり、第二次大戦下のアメリカ教育が、(ソ連やドイツと異なり)プロパガンダではなかったのか等。

1920~30年代にソビエト教育を擁護していたアメリカ教育関係者の多くが、その評価を変えていく過程における集団主義と社会改造主義の葛藤であったり、20世紀前半の民主主義教育が、今でいう社会的公正(社会正義)の視点が弱い点なども再確認できた。

戦後のアメリカ教育が、集団主義やイデオロギーと距離を取ろうとした結果、戦前の進歩主義教育を批判したり、学問探究的なスタンスへと進んでいく流れが描かれていた。そういう意味では、戦後の進歩主義教育批判は、教育のイデオロギーとは何かという論点が含まれてそう。

同じく全体主義への対策方法として、生活適応教育(精神衛生含む)が推進されたことが印象に残った。戦後の生活適応教育を、単に進歩主義教育の系譜で捉えるのでなく、反イデオロギー、反教化の文脈で出てきた点は興味深い。その意味で、生活適応教育は1950年代初期の時代状況を象徴している(p.114.)。

生活適応教育への批判の後、イデオロギーと距離を取るために、学問・科学的な探究へと信頼がシフト。1950年代後半~60年代は、スプートニックショック後の文脈が強調されがちだが、学問重視の教育動向も、道徳的な相対主義の流れも、ソ連の政治体制との対決が背後にあったという点は示唆的だと感じた。

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