読書メモ

諸富徹(2024)『税と社会保障:少子化対策の財源はどうあるべきか』平凡社新書.

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『税と社会保障』を読了。本の帯に、社会保険料か消費税かではない第三の選択肢を考えるとある。特に少子化対策に注目し、少子化対策を補強するための財源をあり方を論じた本。最初に印象に残ったのは、税と保険料を混ぜた日本の社会保障の仕組みを肯定的に評価している点。

私の本選びの問題かもしれないが、「もっとシンプルな制度設計にすべき」という意見が目立つ中で、それと違って見えた。社会保険を軸に構想された制度が、日本的文脈の中で零れ落ちそうな人々を保障してきた結果として、税方式と社会保険方式の折衷の形になっていて、優れているという趣旨だと感じた。

「子ども未来戦略」や背後の理論を前向きに評価しつつ、同戦略の「普遍性」が十分でないと論じる。また、「経済格差の是正こそが最大の少子化対策になり得る」と述べている。普遍性を追求する一方で、財源をどのように賄うか、社会保険の制度がもつ「限定性」の乗り越え方が中盤以降の論点となる。

帯の第三の選択肢とは、金融資産への課税であり、富裕層への課税だと私は理解した。「応能性」はやはりキーワードで、富裕な高齢者からお金を集めたい。社会保険や消費税で集めると、逆進性も働き、社会保険の原理と矛盾する。故に、新税として金融資産や金融所得に上乗せ課税したいという主張だった。

そのためにマイナンバー制度が完備され、勤労所得や金融所得を一元的に把握する仕組みが必要であり、本書はそれを推奨する。全体として、痛税感を意識して政策提案をするタイプの主張とは違うのは分かった。同時に、金融所得の話も含め、政治的コンセンサスをどう得ていくかのビジョンに興味がわいた。

その他、フランス、アメリカ、スウェーデン、スイスなど他国の事例も豊富。個人的にはスウェーデンが消費税が高いだけでなく、企業間の競争や淘汰が進むこと自体は認めつつ、その上で失業した労働者と家族は生活保障し、彼らの再挑戦を促す社会モデルになっている、という話が印象に残った。

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