読書メモ

南川文里 (2007)『「日系アメリカ人」の歴史社会学:エスニシティ、人種、ナショナリズム』彩流社.

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『「日系アメリカ人」の歴史社会学』を読了。本書は歴史社会学の立場から、エスニシティを特定の社会的文脈(空間や時間等)や社会関係において構築されると捉える。20世紀初頭~60年代アメリカにおいて、「日系人であること」を意味づける言語編成やその変化を考察している。

印象に残ったのは、日系社会のエスニック的な連帯が、排日運動や大恐慌などを通して形成されていった点だった。1900年代頃のロサンゼルスは、県人会ネットワークも強く、トランスローカルな論理が多かった。それに対し、排日運動や新規入国禁止などが進む中で、アメリカ社会の一員であるという意識と、エスニックな連帯とが両立をしていったことが描かれている。

また、日系移民が、20世紀前半に、アングロ系白人を頂点に置くヒエラルキー構造や日系社会への差別を受け入れつつ、他の「非白人」に対する「民族的な」優位性を訴えることで集団間序列における優位を確保しようとしたことも述べられていた。

エスニックな日系人アイデンティティとアメリカ社会の一員の意識の両立が困難となったのが、強制収容下の忠誠登録の場面においてであった。そして、「日系アメリカ人」という名称や概念自体は、戦時強制収容を経験した日系アメリカ市民協会の二世が独自の関心に応じて作り出した自己イメージであった。

公民権期以降にエスニック多元主義が強くなる中で、「日系アメリカ人」言説が定着し、日系人のエスニック文化の優秀さのようなものが強調された点も印象に残った。本書を通して、日系社会が一枚岩でないことや、集団間の利害対立や生き残り戦略を含めた、「社会関係の複雑さ」に注目する意義を感じた。

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