読書メモ

瀬川拓郎(2015)『アイヌ学入門』講談社現代新書.

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『アイヌ学入門』を読了。アイヌの人々を「自然と共生する民」と捉えることが一面的であると指摘し、アイヌの人びとが、閉じた世界に暮らしていたのではなく、異民族との交易や接触によって様々に変化してきた過程を様々な観点から歴史的に描いている。

本書では、アイヌの人々の特徴を一言で表すと「日本列島の縄文人の特徴を色濃くとどめる人びと」(p.13.)とする。ただ、時々言われる「変わらなったアイヌ」という見方は一面的で、アイヌ社会の観念世界についても、他の地域・民族との交流の中で形成され、あるいは変容してきたとする。(p.34.)。

例えば、5世紀の古墳社会のフロンティアでは、和人、渡来人、アイヌの三者が入り乱れる多民族的な状況が生じていた(p.301.)。7~9世紀の間に移民が増え、10世紀以降のアイヌが、異境の産物を求めて海を越え、日本と大陸を結ぶ中継交易者として活躍しながら、異民族や中国王朝との対立の中に身を投じて至った、「ヴァイキング」だったと表現する。

同時に、その自由な交易が、14世紀以降、徐々に和人によって制限されていく過程も描かれている。北方の(金を含む)富や産物を独占しようとする動き。アイヌの生活基盤や伝統的な文化が破壊されていく。アイヌ内の多様性が様々に紹介されている。

サハリンアイヌ、千島アイヌの話の他、中世におけるアイヌの三つの地域集団の話が出てきた。オホーツク人や和人として接触する中で、アイヌとしての集合的なアイデンティティや、その中の複数の集団意識が形成される過程が印象に残った。その他、アイヌの儀式や慣習、信仰なども、他地域との類似性や交流性が見られる。それらの過程で、本書では、異なる言語、文化、生業体系を持つ隣接社会への文化伝播のメカニズム(p.247.)に焦点をあて、アイヌの観念体系の複層性や基層などを明らかにしようと試みられていた。

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