読書メモ

黒川みどり(2021)『被差別部落認識の歴史:異化と同化の間』岩波書店.

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『被差別部落認識の歴史』を読了。従来の部落史研究と異なり、本書では民衆による差別の意識や論理、それと日本社会の構造の結びつきを明らかにしていく。その視点は、明治初期に「解放令」が出た後に、自らの地位を脅かすことへの恐れとして、旧習を維持しようとする民衆や、民衆の差別意識へ迎合し、既存の支配秩序を維持する政府の様子に顕著に見られる。

差別の中で、まるで生物学的な差異が存在するかのような人種主義的な認識が広がるプロセスも示される。その際に、被差別部落に対する忌避感情と、民衆の非合理的な「家」・血筋意識の結合が、当時の差別の根幹にあると指摘されている。差別からの解放を求めて立ち上がる人々は、階級的連帯を強め社会主義社会実現へと傾斜する人もいれば、部落民としての連帯意識によって差別撤廃を実現しようとする人々もいた。階級性か、被差別部落の集団性か、という点が論点の一つになっていた。

戦時期に、差別からの解放を目指し、国民一体論に賛同していくものの、結果として差別からの解放は後景に退いてしまう展開も示される。戦後に「民主主義」の語は普及するが、それが精神革命たりうるかを巡って「部落問題の存在を民主化の程度の試金石として見る姿勢」が問われてきた意義も強く感じた。

近代社会のジャーナリズムを媒介にして、差別のゆがみが増幅されるケースが多いという話や、興味を持たず、知識を持たず、部落問題を「無化」してしまう人々の状況への懸念も指摘されていた。メディアも部落問題を顕在化させず無化を促す傾向がある。無化でない向き合い方が問われているように感じた。

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