『アメリカ型福祉国家の形成』を読了。ニューディール政策の一環として制定されたアメリカの社会保障法。個人主義が重視されるアメリカにおける社会保障制度が誕生した時代の光と影を見せてくれる本のように感じた。
人種問題が後景で強く影響していることは分かった。とりわけ、社会保障の議論から、公的扶助や児童扶助の議論が周縁化していくプロセスが印象的。南部保守派の利害もあり、安価な黒人労働力の供給を阻むことがないようにと、各州の裁量を強く認めたり、給付水準や受給資格を細かく規定することを断念する方向に話が進んでいく。
ローズヴェルト自身が、あくまで拠出制に基づく「健全な社会保険」を良しとする発想を持っていたことも関係し、議論の中心が失業保健と老齢年金に焦点化され、公的扶助が「福祉」として差異化され、社会保障の議論から周縁化されていく。失業保険や老齢年金制度の加入者についても職種が限定され、基幹産業に従事する正規雇用の労働者、つまり大半が白人男性を想定して話が進んだ。ライディーン法案含め、加入対象の広さや給付の厚さを目指した法案が頓挫していく様子が描かれている。
ニューディール史研究のレビューも参考になった。ニューディールの革新性を評価した伝統的史学。その保守性を批判するニューレフト史学。保守性を生み出す構造を明らかにしようとするコ―ポリット・リベラリズム論。その後に登場する歴史社会学の諸研究など。全体を通して、本書が時代状況の複雑性や多層性を丁寧に解明しようとしているスタンスは、強く感じられた。