『教室で論争問題を立憲主義的に議論しよう』を読了。ハーバード法理学アプローチの理論的な考察と、日本での同アプローチに基づく実践調査結果が詳述されている。ハーバード法理学アプローチが、公的な判断の下った/下りそうな事例を中心に取り上げるが故に、該当国・時代の文脈に規定されること(日本なりの論点を考える必要があるということ)は実感としてよく分かった。
理論編では、誰もが自分の支持する原理から、自説の正当性と相手が間違っていることを合理的に説明ができてしまうがゆえに、「価値観」「事実認識」「定義」の不一致を見極めたり、アナロジーを用いる必要がある、という法理学アプローチの理論骨子を再確認できた。同時に、調査編の実践事例が、価値観、事実認識、定義などの枠組みを柔軟に扱っており、これならば実践できるかもと可能性を感じた。調査編は、教師のアナロジーの即興的な例示やリヴォイシングを試みる生徒とのやり取りも見ごたえある。
議論支配や論破を回避し、また、生徒がアナロジーの例を自力で見つける難しさがあることを踏まえても、リヴォイシングを含め、議論に教師がある程度介入をしていく必要があるというか、そのタイミングの見極めが重要なのだろうと感じた。論争問題学習にとっての外部協力者の価値を示す意味でも、弁護士との共同授業はその好例と思えた。
その他、ハーバード法理学アプローチの背景に当時の司法積極主義の採用があったこと。日本も司法積極主義の機運が高まっていること。法理学アプローチの教育関係者たちが、手続き的な工夫や規準の重要性に徐々に気づいていく過程も、印象に残った。