『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読了。本のタイトルの問いへの予想が、いい意味で裏切られた楽しい時間だった。「読書との関わり方」の話と、「労働と文化の両立」の話がうまく両立されていて、本の終盤が示す、今後の社会像の話への広がり方が面白かった!
本の前半・中盤は、明治~現代の読書の位置づけを整理。大衆小説、エンタメ小説の誕生背景にも詳しい。その上で自己啓発本などの「ノイズ」の少ない情報が普及し、インターネットやSNSの普及に至る一連の流れが理解しやすかった。同時に、カッパ・ブックスの登場含め、実用志向の本が、「『本』を階級から解放する」側面があることや、「若者の読書離れ」言説が、階級の優越を示す道具になりやすい(p160.)などの階級的視点の重要性を感じた。
本の終盤は、読書から見える未来の社会像について。読書の良さの1つが「仕事以外の文脈を思い出すこと」だからこそ、(読書だけでなく)何事も半身で関われる、「半身社会」という話へと繋がっていく。同時に、現代社会の「仕事にできる限りの時間を費やすことを求めてくる」特徴も鮮明化されており、時代の当事者として身に詰まされる感じも。仕事が大好きだという著者が、全身全霊で働くことを美化したくないという、せめぎ合う気持ちを正直に書いているのも、印象に残った。